「馴れ合い」の町政にメスを入れる─地方自治の原点を問う百条委員会


2025年12月号 そこが聞きたい! インタビュー

福岡県大刀洗町。町の職員が偽造した宿泊証明書を提出し、宿泊費を不正に受給していた事実が議会に報告されないまま隠蔽されていた。大刀洗町議会は、この問題を深刻に受け止め地方自治法第百条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置した。しかし、その根はさらに深く、15年間にわたる不透明な会計処理の実態が浮かび上がる。これは単なる一職員の不祥事にとどまらず、長年の「馴れ合い」体質によって形骸化した町のガバナンス、そして二元代表制のあり方を問う戦いの始まりだった。百条委員会は地方自治の正常化のための「最後の砦」なのか。その経緯と地方自治が目指すべき本来あるべき姿について語る。

高橋直也氏 福岡県 大刀洗町議会 議長

昭和47年(1972)、三井郡大刀洗町出身。平成27年大刀洗町議会議員選挙に初当選。現在3期目。令和5年10月に議長に就任。趣味は居合道(三段)。

議会に知らされなかった職員の不祥事

―まず、百条委員会という非常に強い権限を持つ委員会を設置するに至った、直接のきっかけについて教えてください。

高橋 職員が宿泊証明書を自作して宿泊費を受け取り訓告処分を受けていたことが発覚し、昨年(令和6年)の12月議会の一般質問で取り上げられ、複数の議員から「余罪の再調査や適正な処分かどうか」について指摘がありました。
しかし、町側は「他の文書の偽造改ざんではないと理解している」「実際には別のホテルに泊まっていたので実害は無かった」「私文書偽造に関する処分規定がない」などとして一切の追加調査を行わない姿勢を見せたことがきっかけとなり、大刀洗町議会は、行政事務に疑いありとして令和6年12月議会の最終日に、地方自治法第100条に基づく公金の支出及び職員の懲戒規定等に関する調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数(8対1)で議決しました。

―この不祥事が発覚したきっかけは?

高橋 不祥事が明るみとなったのは、私が3期目の当選を果たし令和5年10月より大刀洗町議会議長に就任し、これまでの議会運営や議会としての役割などを自分なりに精査していく中で、過去の報告書や書類等の事案をチェックし発覚したものです。
当時の監査委員から議会に提出された例月出納検査結果報告書には、検査の結果として、「支出伝票(令和5年1月分)の添付書類が正式な証拠書類として不明確であるため、(町に対し)確認のうえ報告を求めます」等と記載されていましたが、そのような文面では問題の全容が全く見えず、あえて問題を隠蔽しているとも疑われるような報告内容でした。
監査委員は当然、宿泊証明書偽造の事実を把握していたと思われますが、当時の議長がこの事実を知っていたのか疑問です。知っていたのであれば、なぜ議会に周知しなかったのか? また、当時、監査委員からの指摘に対する町からの報告内容は、議会には一切知らされていませんでした。

機能しない監査と形骸化した二元代表制

―そもそも、百条委員会という「最後の砦」に頼る前に、町の監査機能が働くべきだったのではないでしょうか。

高橋 おっしゃる通りです。地方自治法98条1項および2項には、監査委員の調査権限が定められています。監査委員には実地検査の権限もあり、いつでも調査でき、また、その結果を報告するというガバナンスが働いていれば、百条委員会まで立ち上げる必要はなかったのではないでしょうか。

―なぜ監査機能が働かなかったのでしょうか。

高橋 当時の監査委員は役場関連団体職員OBと議員選出の2名で構成されていたこともあり、行政の不正を厳しく追及するスタンスではなかったのかもしれません。現在も役場職員OBと議員選出の体制であることには議論があります。

―議会の監視機能も形骸化していたと。

高橋 これまで本当の意味での二元代表制における監視役というスタンスが不十分だったのかもしれません。町長も議員も、住民から選挙で選ばれた代表です。町長が行政運営を任されているのに対し、議会はその運営が適正に行われているかを監視する役目を負っています。このバランスが崩れ、「そのくらいいいだろう」と済ませてきた結果、職員の不祥事も議会に報告されず、隠されてきたのかもしれませんね。

氷山の一角─もう一つの疑惑「かてて」問題

―百条委員会の調査対象は宿泊証明書偽造問題だけではないそうですね。

高橋 「公金の支出及び職員の懲戒規程等に関する調査特別委員会」という名称で委員会を設置し、もう一つの大きな疑惑である「大刀洗マルシェかてて」の会計問題も調査対象になりました。実は、宿泊証明書の問題が発覚する以前の平成29年頃から、議会内ではこの「かてて」の不透明な会計処理が問題視されてきました。

―どのような問題なのでしょうか?

高橋 「かてて」は高齢者の生きがい作りや町のPRなどを目的に始まった移動販売事業ですが、その会計が町の正規の口座ではなく、個人名義の別の通帳で管理されていたのです。人件費等は町の一般会計から支出していますが、出品者から手数料を徴収し、売上としてその通帳にプールされ、自由に使われていました。通帳の中身は町の会計管理者も把握しておらず、「かてて」が町の直営事業であれば、これは地方自治法が定める総計予算主義をはじめ、公務員が順守すべき会計原則にことごとく違反する可能性があります。

―町はなぜそのような運営を?

高橋 本来ならば、町は手数料を徴収する場合に必要な地方自治法に基づく「手数料条例」を定めるべきです。町長は「これは町の直営事業ではなく設立当初より任意団体だ」と突然主張し始めました。しかし、助成金の申請や町長マニフェストでは「町直営」と明記され、「かてて」が使用しているインボイス制度の登録番号は大刀洗町の登録番号です。
矛盾だらけで、納得ができません。しかも、証人喚問において、その「任意団体」と称する中身について、町長は「代表者の定めがない」「会計責任者も誰という定めがない」と証言しました。団体の規約も決算書も総会資料も存在せず、町が率先して設立した任意団体とは到底思えません。また、その様な団体に町役場職員を15年近くも派遣して職務を行わせていたことについて、町長の管理監督能力が疑われるのは当然至極のことだと思います。

―具体的な不正の疑いは?

高橋 問題は山積みです。まず、「かてて」の通帳はこれまで一度も監査を受けていません。金銭の出入りを示す出納帳も収支報告書も一部しか作成されず、支出の証拠となる領収書は一部、廃棄されていました。関連資料も3年程度しか保管していません。使途不明金の額はかなりの金額になると予測されます。さらに、新生児世帯に贈られるベビーギフト事業では、実際には2500円の品が出品されていますが、町から「かてて」には3000円が振り込まれていました。差額の500円の行方は正確には全く分かりません。また、「かてて」は町の施設を全額減免で借りてイベントを開催しながら、出品者からは施設使用料を取るという「又貸し」的な行為まで行われていました。


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