2025年2月号 そこが聞きたい! インタビュー

人種・民族・宗教・セクシュアリティーなどに対する偏見や差別に基づいて憎悪的な言説であるヘイトスピーチを繰り出す集団─在特会にはそのイメージがまとわりついていた。会長を務めた八木氏がその実態を語る。(編集部:このインタビューはメールを経由して行ったもの)
八木康洋氏 在日特権を許さない市民の会(在特会)前会長
昭和48年、静岡県生まれ、茨城県在住。在日特権を許さない市民の会(在特会)元会長。平成8年3月東京工業大学工学部化学工学科卒業。平成10年3月東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻修士課程修了。平成13年3月東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程中退、平成19年12月の在特会設立時から会の運動に参加し、平成26年12月から令和5年4月まで会長職を務める。現在、ネトウヨとして言論活動を行なっている。
転機になった不法滞在問題
―在特会は令和5年(2023)に公式サイトが消滅し、実質解散しているようですね。
八木 令和4年(2022)9月に在特会のホームページが消されてしまい、それ以降は会員のみが閲覧できるブログにて発信していました。令和5年4月にその会員専用のブログにて、私自身の会長退任を発表しました。会員専用のブログは退任後1カ月後に削除しましたので、その記事を保存している人以外は見ることができなくなっていると思います。在特会はまだ解散していません。残って活動している人達もいます。私は既にその活動に関わっていませんので、どうなっているのか知りません。
当会は一時期、ヘイトスピーチ団体としてマスメディアに取り上げられる等、それなりに盛り上がった存在でしたが、最近ではマスメディアだけでなくインターネットの世界でもあまり相手にされることのない組織になりました。我々、在特会の内側にいた者としては大きな盛り上がりを見せたと思っていましたが、現実にはインターネットの中のごく一部のトレンドに過ぎません。世論に対して大きな影響を与えた活動という訳ではなかったと思います。しかしながら、マスメディアによって世論形成がなされる中、それに抗う姿を示し、記録として残すことくらいはできたと思っています。
―一般には過激なヘイトスピーチを繰り出す集団というイメージが強いと思います。会を始めた時から過激な言動があったのでしょうか?
八木 会は平成19年(2007)12月に設立されました。それまでインターネットの中で嫌韓発言がなかったかというと、そうでもありません。当時、「2ちゃんねる」と呼ばれた大型掲示板サイトでは平成11年の設立当初から、韓国や北朝鮮を嫌うような発言がありました。在特会の活動目的は、在日特権を廃止することで、具体的には入管特例法の廃止です。在日特権だけを扱う市民団体というわけではなく、外国人参政権問題やマスメディアの偏向報道等にも抗議活動を行なってきました。設立時に、2ちゃんねると同程度の発言はあったと思いますが、今ほどマスメディアが注目することはなく、目立っていなかったと思います。
―当初はそこまで過激ではなかったんですね?
八木 在特会は設立当初からインターネットによる情報発信しかしていないので、それを目にする機会のない人にまで我々の主張が訴求することはありませんでした。設立当初は、デモ活動のような大衆へのアピールを否定し、集会に会員を呼びかける程度のものでした。デモ活動の効果を否定するつもりはありませんでしたが、デモ行進で主張する内容を聞いた人が詳細まで憶えていることなどないだろうから、労力の割に得られる成果が少ないという判断でした。また、基本的にすべてを公開するように情報発信していました。
ベトナム戦争時に米国のマスメディアが深くまで立ち入り、それによって反戦運動が広がったわけですが、その事を特に意識をしなかったものの、そういう知識だけはありましたので、最初から隠し事なんかない方が良いという判断でした。だから、集会等活動の様子から会計、方針を巡る話し合いの部分まで積極的に表に出すようにしていました。
―それが段々、過激になったように見えますが、きっかけとなった出来事というのはどういうものなのでしょうか?
八木 会の活動方針に変化が出たのは平成20年頃で、既にYouTubeによる動画配信が可能となっていて、さらにニコニコ動画での生中継が可能になりました。動画配信を用いれば、デモ活動の主張をインターネット上に残すことができ、生中継の映像を出すことによって、編集後の動画が何処を切り取ったものなのかを検証することができるようになりました。そこで思想的に近い他団体と一緒に積極的なデモ活動を行なうようになり、その様子を動画配信しました。活動の様子を生中継で配信する以上、当方に不都合となる事実があったとしてもそれを含めて一般公開されるので、視聴者には全体を見たうえで賛同なり批判なりの判断してもらえるものと期待していました。当会が過激な活動を行なうと見られるようになったのは、デモ活動や敵対勢力との小競り合いを動画配信するようにしたからではないでしょうか。
会にとって大きな転機となったのは、平成21年にニュースとなった埼玉県蕨市のカルデロン一家の不法滞在問題でした。当時、マスメディアはどの局も一家に特別在留許可を与えるべきだという一方的な主張をしていました。インターネットでは、可哀想だから在留させてやるべきではないかという意見も一部でありましたが、多くは退去強制の司法判断を支持するものだったと記憶しています。
そして、出頭期限の3月9日、朝からマスメディアが待ち構える中、父親と母親が東京出入国在留管理局に出頭しました。在特会や共闘団体の人達が現場に集まって来たのは出頭から1時間くらい経った頃でした。取材陣が東京出入国在留管理局の外で待機している目の前で、我々は動画の撮影を始め、桜井誠が不法滞在を糾弾する演説を行ないました。その演説の中で、不法滞在を問題視せずに寧ろ助長するような報道をしてきたマスメディアに対する批判を展開し、動画閲覧者から多くの支持を得たと思います。その後、京都朝鮮学校の公園不法占拠への抗議活動を行い、その辺りから会員数が2千人を超えるようになり、反日極左の知識人や左翼メディアから敵視されるようになりました。
―不法滞在の実態はマスコミが報じる内容とは違うと?
八木 蕨市役所への申し入れや市内での調査を通して、マスメディアが流している情報、すなわち地域住民が在留許可を求めているというものと実際の町の姿とは真逆であると知りました。カルデロン一家を支援しているのは、極左暴力集団と左翼思想に染まった弁護士で、この連中がマスメディアと結託してカルデロン一家を利用し、外国人の不法入国を推進しようとしている現状に、強い憤りを感じましたね。この一家も帰国して不法滞在を解消し、次回からは正式な入国手続きを経て日本に滞在するようになれば、現状とは異なる幸せな生き方ができたはずなのに、一部の反日活動家やマスメディアのエゴイズムによって不幸な道へ突き動かされているだけだという事が確認できました。
在特会と共闘団体は、4月11日に蕨市内で不法滞在を糾弾するデモ行進を行ないました。デモ行進は事前にインターネットで告知をしていたためか、極左暴力集団が抗議に来ており、横断幕やプラカードが壊される等の被害を受けました。各所で左翼の妨害には遭いましたが、デモ行進は最後まで行なわれ、動画として配信することができました。このデモ行進以降、我々の活動にはヘイトスピーチ左翼による妨害行為がつきまとうようになりました。
法廷闘争
―こうした小競り合いが過激なイメージを醸成していったと思います。
八木 平成21年は、在日特権に抗議する活動や外国人参政権に反対する活動を行い、左翼から妨害を受け続けましたが、左翼の妨害が増えるのと比例するように、インターネットでの在特会支持者は増加しました。その年の12月4日、関西のメンバーが京都朝鮮学校の公園不法占拠問題を糾弾するため、京都市内の勧進橋児童公園に集結し、抗議活動を行ないました。それまで、マスメディアにほとんど取り扱われることのなかった在特会ですが、この事件以降、メディアからも社会悪として扱われるようになりました。京都朝鮮学校に対する抗議活動に関しては、刑事と民事の裁判で争うことになり、当会は大きな打撃を受けることになりました(※注)。
―敗訴しますね。
八木 その損害賠償のうち大部分が名誉毀損による損害という判決でした。一審訴訟の争点整理で、当会会員らの発言が真実なのかどうかが問題であるとされたので、私は頻繁に国会図書館や東京大学に足を運び、新聞記事や各種統計資料を調べ、そのコピーを証拠として集めました。朝鮮学校側が指摘した問題発言の真実相当性はすべてその証拠とともに立証することができたと思います。
ところが、判決では争点がいつの間にかずらされ、当会の活動の公益性がもっぱらでないから名誉毀損に該当するとなってしまいました。社会問題に直面した時に、それを改善するために取るべき行動としてデモ活動というのはあり得ないから、当会の活動がもっぱらの公益性に基づくものではなく違法だ、というのがこの判決なのです。後の高裁、最高裁の判決でも覆ることはありませんでした。判決文の詳細は公開されているので、興味がある方はよく読んでいただきたいと思っています。当時、マスメディアも弁護士会も当会を敵対視していたため、彼等はこの判決を全面的に支持しています。社会的な背景から結論ありきの裁判を実行してしまうという裁判官も問題ではありますが、その結果が自分達の側の権利を抑圧する方向に利用され得ることくらいは、マスメディアや弁護士会にも自覚していただきたいと思っています。
この裁判では金銭面でもかなりの打撃を受けました。私自身も相応の出費があり、賠償金の一部負担、弁護士費用、裁判や打ち合わせのための交通費、宿泊費等で気が遠くなるような借金も背負いました。会員の皆様からの寄付のおかげで何とか乗り切ることができました。私にとって幸いだったのは、この裁判の期間中、民主党政権だったことです。一審判決の直前に自民党への政権交代があり、それまで下落を続けていた株価が一気に上昇しました。株の売買により自身の借金は利息も含めて早期に返済できました。左翼とは何かと敵対することが多い在特会ですが、この時ばかりは民主党政権下で株価を下げてくれた反日左翼のおかげで助かったわけで、左翼に感謝するという何とも皮肉な話ではあります。
―一方では在特会の活動がヘイトスピーチだと指摘され始めますね。
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