2025年1月号 そこが聞きたい! インタビュー
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中国で法輪功学習者、ウイグル人など無実の人々(良心の囚人)が臓器を収奪され、移植手術に使われているという事実を世界で初めて告発したマタス博士。6年ぶりに話を聞くことになったが、事態は依然として変わっていないという。それは中国での移植を希望する日本人が後を絶たないことも背景にある。(令和6年11月29日に福岡市で開かれたSMGネットワーク主催「中国臓器移植問題の勉強会」に講師として来福した博士にインタビューしたもの)
デービッド・マタス氏 中国の臓器移植問題を調査している国際弁護士(カナダ)
中国で法輪功学習者、ウイグル人など無実の人々(良心の囚人)が臓器を収奪され、移植手術に使われているという事実を世界で初めて告発したマタス博士。6年ぶりに話を聞くことになったが、事態は依然として変わっていないという。それは中国での移植を希望する日本人が後を絶たないことも背景にある。(令和6年11月29日に福岡市で開かれたSMGネットワーク主催「中国臓器移植問題の勉強会」に講師として来福した博士にインタビューしたもの)
2019年「中国(臓器収奪)法廷」
―6年振りのインタビューですが、その時の話では中国で法輪功学習者、ウイグル人、地下教会信者たちつまり良心の囚人から収奪された臓器による移植手術が年間6万5千から10万件行われているという話でした。今もそのレベルで推移しているのでしょうか?
マタス 今でも同じ数字で推移していると思います。私が調査した前回の数字は、中国政府が導入した移植病院の指定制度内の病院数167がベースになっています。これらの病院の広告やホームページに公表されている施術数を基に推計した数字が、6万5千から10万件でした。しかし、現実は指定外の病院でも手術が行われているはずです。2006年の私たちの調査結果が公表されると、中国政府が否定したり病院のホームページを閉鎖したりするなど隠ぺいし始めました。数字としては正確には把握できていないのが現状です。ただ、病院などのインフラも整っていますから、かなりの数の移植手術は今でも行われているのは事実です。
―2019年に開かれた「中国(臓器収奪)法廷」(民衆法廷)では、その収奪が行われていたことを認めましたね。
マタス 民衆法廷とは、国際法上問題がある行為が発生していると考えるNGOや市民等が、自主的に有識者を集めて構成する模擬法廷です。過去に、ベトナム戦争、湾岸戦争、原爆などに関して開かれています。この法廷には30人の専門家が証拠を提示するために出廷し、勅撰弁護士であるジェフリー卿が議長を務め、審理が進められました。そして、最終判例として、中国では相当な規模で臓器の強制摘出が行われており、臓器供給源は収容された法輪功学習者やウイグル人と考えられると結論付けました。
理由は、中国の医師と病院が約束する臓器提供までの異常に短い待機期間、政府及び病院が公表する自発的な臓器提供者数を大幅に上回る臓器移植手術の回数、そして、自発的臓器提供プログラムの計画が行われる以前に「臓器移植手術の施設と医師の大規模なインフラ整備」がある事などを挙げています。
本来なら正確な数字を出して反証すべきは中国政府なのですがやってくれないので、7人の判事団員が2018年から2020年にかけて、公聴会を二回開き、入手可能な証拠・証言を精査し、実際に今でも臓器収奪が行われていることを確認しました。少なくとも私たちが調査した数の収奪は今でも行われていると見ていいでしょう。それにもかかわらず、依然として説明責任がある中国政府に調査の動きは全くありません。
―ということは博士が調査して出した10万件に近い数字だと。
マタス ごくわずかですが、中には合法的なドナーからの臓器提供もあるでしょうが、ほとんどが良心の囚人から収奪された臓器です。中国はこの移植手術がビジネスになると分かり、加速させてきました。その結果、供給源を良心の囚人に求めたのです。
―世界192カ国のうち、臓器移植に関して国外で起こっている収奪に対応する法律を制定した国は20か国のみですが、徐々に中国による臓器収奪に対する国際世論の非難の声が挙がっています。それを受けて中国で抑制する動きはないのですか?
マタス 期待してはいるのですが、病院数、スタッフ数、ベッド数は減っていません。残念ながらそういう兆候は見えていないのが現状です。
消えた2万5千人
―法輪功学習者は捕まらないように隠れていて、今、収奪のターゲットはウイグル人だと聞きますが。
マタス その実態はなかなか掴みにくいですね。どれだけの人が拘束されたのか、法輪功学習者が多いのか、ウイグル人が多いのか。統計としては出てきていません。ワシントンのNGOは、法輪功学習者で拘束された数を100万人台と発表しました。この中で拷問などによって「棄教」を受け入れれば解放されます。はっきりしたことは分かりませんが、法輪功学習者よりもウイグル人の方が収奪された数は多いかもしれません。
ウイグル人の実態については、イーサン・ガットマン氏(ロンドン在住のアメリカ人ジャーナリスト)の報告に詳しいのですが、2015年以降、中国政府は新疆ウイグル自治区全体で収容所を建設、2016年末までに少なくとも100万人のウイグル人が収容されています。彼らに対し臓器移植の適合性を調べる血液検査を行っています。このうち、臓器収奪の対象として望ましい平均年齢28歳の者が夜中に連れ去られているといいます。年間にこの年齢層の2・5%~5%が消えていて、100万人のうち低く見積もって2・5%、2万5千人が毎年消えていることになります。
―6年前のインタビューでは、意図的に脳死させる機械を開発しているということでした。
マタス それは韓国のドキュメンタリーで取り上げられたものですが、この機械がどれだけ使われているのかは不明です。中国としては、臓器が摘出されるまで生きていることが重要ですから、薬剤を使って脳死させていると思われます。ただし、薬剤が内臓に蓄積されるので、機械が開発されたのでしょう。いずれにしても中国では臓器移植のオンデマンド供給体制は出来上がっています。
例えば、2020年に重度の心臓病を患った名古屋在住の中国人実習生が臓器移植手術のために中国に帰国しました。当時日本のメディアでは「日中を繋ぐ命のバトン」と美談的に報道されました。ところが、その後、中国の湖北日報の報道によれば、患者が武漢協同病院に運ばれてから10日間で移植用心臓が3度も提供されたことが判明しました。先進国の中で移植医療が進んでいるアメリカでさえ、心臓の臓器移植にかかる待ち時間は数カ月、日本は平均で3年半も待たされるというにもかかわらずです。
韓国のテレビ局が現地で潜伏取材しました。韓国人を含む外国人の移植希望者を受け入れていることで知られる天津第一中心委員の東方臓器移植センターでの取材では、「昨日は腎臓移植3件、肝臓移植は4件。早ければ2~7日、長くても1~1・5カ月」という証言を報道しています。こうしたオンデマンドで臓器移植をするには、良心の囚人を何らかの形で動かないようにして生きたまま収奪していることは容易に想像できます。どうしてこんな残酷なことができるのか。これは他国にはとても理解しがたいことですが、法輪功学習者、ウイグル人、地下教会信者などを悪魔化することによって、どんな仕打ちをしてもいいと洗脳し、それを免罪符にしているのです。
第二次大戦で同盟国とナチスが戦い、ナチスが負けてホロコーストが終わりました。この時、ユダヤ人の収容所には夥しい死体、ガス焼却炉が見つかりました。この後の調査でいろいろなことが判明していきます。もし、同盟国が負けていたら、ナチスがやったこと、つまりホロコーストという事実は表に出なかったと思います。それと同じで中国による臓器収奪も肝心なことは表に出てきません。臓器移植を産業化させたのは分かっていますが、どうやって臓器収奪をやっているのかが分かっていません。中国共産党体制が無くなれば、その事実が明らかになります。私はその日を待ち望んでいます。
―ユダヤ人である博士は弁護士としてホロコーストの戦争犯罪人を追及する活動をやってきましたね。そして、現在は中国による臓器収奪という異常な人権侵害をやめさせる運動に積極的に関わっています。その執念には敬服します。
マタス 人類はこれまで様々な悪行を重ねてきましたが、これほど邪悪な悪行はありません。中国の臓器移植はホロコーストよりも性質が悪い、人類史上最悪の虐殺だと思います。ホロコーストには、ユダヤ人への妬み、憎しみ、嫌悪などの人間的な感情がありました。しかし、中国の臓器移植は単に金儲けのために殺人が行われているのです。人間的な感情が全くない、国家的な犯罪なのです。
この臓器収奪の背景には、中国の医療制度が変わって病院が利益をあげなければならなくなったことがあります。海外からの患者を積極的に受け入れて収益を上げてきました。もう一つは政治的な背景があります。中国政府にとって、学習者数が1億人に膨れ上がった法輪功、抵抗を見せていたウイグル、チベットは目の上のたんこぶになっていて、彼らの存在が体制を脅かすものだとして、迫害してきました。迫害の一つの手段として臓器収奪があります。ホロコーストには人種、イデオロギー、宗教問題があったのですが、中国による臓器収奪の背景には法輪功そのものを壊滅させるという政治的目的があります。
外圧をかけるしかない
―こうした中国政府による悪行を阻止する動きが徐々にですが、出てきていますね。
マタス 民衆法廷に中国は召喚されましたが、欠席しました。私も含めて様々な証言者が証言し、最終判決で中国による臓器収奪の存在が認められました。中国を犯罪国家であり、中国と国交している国も犯罪に加担しているとみなすという認識です。
―台湾は早くから海外での移植ツーリズムを禁じるようになっていますね。
マタス 台湾の衛生署(現在の衛生福利部)は2006年に政命令を発し、医師が患者を仲介業者に紹介または仲介すること、臓器売買や臓器仲介を禁止する法律がない国、または臓器の出所情報が透明でない国へ患者を紹介または仲介すること、海外の臓器移植機関と連絡を取り、患者を仲介すること、患者を海外移植に連れて行き報酬を受け取ることの行為を行った場合、医療倫理に違反し、懲戒処分を受けるとされています。2012年、台湾の立法院は、海外で臓器移植を受けた患者の移植国・病院情報・執刀医の記録を、主要な医療機関および医師が衛生署に提出する義務を採択しました。この記録は、患者が帰国後、健康保険給付を申請する際に提出する必要があります。
2015年には「人体臓器移植法」を改正し、死刑囚からの臓器の使用、臓器の売買・仲介行為を禁止し、移植ツーリズムを禁止しました。さらに、違法な臓器移植に関与した医師は免許を剥奪される可能性があります。この法律では、海外で臓器移植を受けた患者が、台湾で公費による医療アフターケアを受ける資格を得るためには、移植された臓器の合法的な出所を証明する書類を提出することを義務付けています。
また、この法律では、台湾国内外を問わず、臓器仲介、臓器売買、移植ツーリズムに関与した者に対して1年から5年の刑期を科すと規定されています。外国の法律でこれらの活動が処罰されるか否かに関わらず適用されます。さらに、医師が仲介行為に関与した場合、その医師免許は取り消されます。海外で臓器移植を行った場合、患者は台湾でのアフターケアを求める際に、移植が行われた国や病院、移植された臓器に関する情報を、アフターケアを受ける病院に報告する必要があります。この報告が行われない場合、病院には罰金が科されます。このように台湾はかなり強力に臓器争奪による移植を禁じています。
―アメリカも本格的に取り組み始めましたね。
マタス 2023年3月、アメリカ合衆国下院は「臓器収奪停止法案」を可決し、上院に提出しました。この法案は、違法な臓器売買に関与した人物に対し、パスポートやビザの発行を拒否する権限を国務長官に与えるものです。また、臓器収奪に関する外国の状況を報告し、その促進者に制裁を科すことを義務付けています。
2024年7月には「法輪功保護法案」が下院で可決され、上院に提出されました。この法律は、法輪功学習者や他の良心の囚人を標的とした臓器摘出を含む、臓器収奪に関与した者、またはそれを助長した者に対して制裁を課すことを求めています。また、国務長官に対し、中国の臓器移植政策とその実践に関する報告を義務付けています。
アイダホ州では、2024年7月に施行された法律により、健康保険会社が中国または臓器収奪が行われていると知られる他の国での臓器移植やその後のケアに対して保険の適用を禁止しました。この法律はまた、アイダホ州内で行われた臓器移植において、その臓器が中国や他の禁止された国から提供された場合、健康保険会社がその費用を補償することを禁じています。
さらに、州内の医療機関および研究施設が、中国のような敵対国から提供される遺伝子配列解析機器やソフトウェアを使用することも禁止しています。テキサス州およびユタ州にも同様の立法があります。米国では、特定の州で法律が制定されている一方で、他の州では未対応であるという状況が見られます。連邦レベルでは法案が提案されているものの、まだ制定には至っていません。
―この他の国際社会でも動きがあるようですね。
マタス 医療界と一部医師による医師団や人権保護の国際組織が中心となって、毎年のG7サミットに向けて、世界の人々が中国での臓器収奪を危惧していることを各国首脳に認識してもらうためのグローバルな署名活動が今年から始まりました。カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカのG7に加え、EU、アルゼンチン、オーストラリア、インド、イスラエル、メキシコ、韓国、台湾の首脳を対象にしています。
現段階では、中国政府は臓器収奪について全く責任を感じていません。なぜならば、収奪していけば国内の敵対勢力を削ぐことができる上に、自国の医療制度にも役立つからです。倫理観、良心の呵責が中国政府には全くないのです。中国を変えるには外圧も必要です。
犯罪に加担する
―日本の現状は?
マタス 韓国では2020年に制定された法律により海外で臓器移植を受けた人は帰国後30日以内に保健福祉部が定める規定に従い、移植記録を提出することが義務付けられています。この要件自体は証拠収集を目的としたものに過ぎないと私は見ていますが、それすら日本では実施されていません。最近の日本政府の調査も詳細に欠けており、完全かつ正確な実態を把握することは難しい状況です。日本では、地方レベルでも国家レベルでもこの問題に対する具体的な対応がなく、提案された法案も存在しない状況です。
ただし、ゆっくりした動きですが、ポジティヴな動きであることは間違いありません。法案を提案しようとしている動きがあります。
―2023年、厚労省が行った実態調査では、日本から海外への渡航移植者のうち、227名のアメリカに次いで、175名の中国が2番目に多いことが分かっています。
マタス ただし、この調査の数字は中国への移植ツーリズムの総数を網羅しているわけではありません。すべての人が回答したわけではなく、また、ほとんどの患者は移植後の免疫抑制剤だけが必要であるため、すべての患者が移植後に医療機関での診療を必要とするわけではないからです。実態はもっと多いと考えた方がいいでしょう。
日本の人たちには、中国で移植手術を受けることはすなわち中国による犯罪に加担することになるという意識を持っていただきたいのです。それは日本単独でできるはずです。中国自体が変わるのを待っていては良心の囚人からの臓器収奪はいつまで経ってもなくなりません。日本が変わるしかないのです。
―これは死生観にもなるかもしれませんが、臓器を提供する側ははっきりとした意思表示をしたドナーであるべきなのは論を俟ちません。自分の命が助かりたいばかりに何の罪もない人々から収奪した臓器を移植してまでも生きるのかという問題になります。それは人倫にもとります。
マタス 健康な人を殺してまで、病人を延命させる必要はありません。それは、移植自体が殺人であり、どんな理由があるにせよ正当化できません。まずは、中国では良心の囚人たちから臓器が収奪されて移植されているという事実を知るべきです。
私は81歳になります。私は全ての人権侵害とその被害をやめさせたいという一心でこれまで活動してきました。しかし、これは終わりのない世界だとも思います。私はこれまで人生を人権問題に捧げてきました。始めた頃には南アフリカのアパルトヘイト、旧ソ連、軍事独裁国家などの問題は解決しましたが、また新しい人権問題が続々起きてきます。つまり、人権問題には終わりがないのです。もっと多くの人が人権意識に目覚めて、少しでもそうした人が増えてくれることを願っています。
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