2万件のカスハラを経験した元公務員の挑戦─行政の「実行部隊」を経て、入札支援とカスハラ対策の仕組みを構築する


2026年4月号 そこが聞きたい! インタビュー

20年以上勤めた福岡市役所を退職し、官公庁入札の獲得支援とVRを活用したカスタマーハラスメント(カスハラ)対策という、独自の二本柱で事業を展開している谷口良太さん。行政の「実行部隊」として入札発注やクレーム対応の最前線にいた経験を武器に、最新のテクノロジーを掛け合わせることで、下請け構造やハラスメントが止まない社会の「仕組み」そのものを変えようとする挑戦に迫った。(聞き手:飯牟礼信一郎 本誌副編集長)

谷口良太氏 株式会社めんたいバース企画 代表取締役

1977年福岡県生まれ。高校卒業後、福岡市役所に勤務しながら、30代で一念発起し福岡大学商学部二部へ入学、同学部を首席で卒業。在学中に身につけたマーケティング知識、グロービス経営大学院福岡校や研修においてボストンコンサルティンググループから戦略的思考等を学ぶ。また、20年以上の市民向け窓口勤務で約2万件の苦情を毎日受付・対応していた経験をベースに、動物行動学、交渉術、コンサル技術を組み合わせ、3分以内にクレームを解決し、笑顔で帰ってもらう技術の体系化に成功。2023年4月に株式会社めんたいバース企画を創業。

二つの事業を貫く「社会構造の変革」という理念

─「官公庁の入札獲得支援」と「カスハラ対策」、この異色とも思える事業の全容からお聞かせいただけますか。

谷口 「官公庁の入札獲得支援」は、建設業を中心に最近では他業種も含め、全国の事業者様が入札案件を獲得するための講座を運営しています。システム開発やBPOと呼ばれる業務の外部委託、製造業など多岐にわたる業種に対しては、講座化に向けた「伴走支援」という形でサポートもしています。
 もう一つが「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策支援」です。いずれも競合が極めて少ない分野ということもあり、有り難いことにご紹介を通じて問い合わせが殺到している状況です。

─入札支援とカスハラ対策。一見すると接点がないようにも思えますが、谷口さんの中ではどのようにつながっているのでしょうか。

谷口 弊社の特徴であるAI、VR、ブロックチェーンといった先端技術の知見を双方に掛け合わせることで、「社会構造の変革」という一つの共通した目的を持たせています。入札支援においては、下請けから元請けへと脱却する構造転換を目指し、カスハラ対策においては、局所的な対症療法ではなく、ハラスメントを生み出す社会の仕組みそのものを変えていく。この「社会課題の解決」を最終的なゴールとしている点が、私の中での揺るぎない共通項です。

─20年以上務めた福岡市役所を辞めて起業されたのも、その「仕組みを変える」という思いが強かったからでしょうか。

谷口 もともと社会貢献への思いで行政に入りましたが、行政の本質は国が決めたルールを忠実に実行する「実行部隊」にあります。組織の歯車として決められた枠組みの中で動く以上、仕組み自体の変革に踏み込むことは容易ではありませんでした。当時、「このまま人生を終えていいのか」と自問自答し、より大きな形で社会に貢献したいという思いが抑えられず退職を決意しました。

─社会の「構造」そのものに目を向けるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

谷口 実は、暗号資産の投資詐欺(ポンジ・スキーム)の被害に遭った経験があります。しかし、そこで単に「騙された」と嘆くのではなく、なぜそのような仕組み、社会構造が成立しているのかを徹底的に分析しました。この時に得た「構造そのものを把握しなければ、真の解決には至らない」という視点が、現在の事業構想に色濃く反映されています。物事の裏側にある「仕組み」を解き明かし、テクノロジーでアップデートしていく。それが、行政を飛び出した私の新たな役割だと思っています。

入札は「トライアスロン」であり「総合格闘技」

─入札獲得支援は具体的にどのような仕組みで、なぜ支援が必要なのでしょうか。

谷口 「入札」という言葉は一般的ですが、そのルールや実態は広く知られていません。膨大な提出書類や複雑な評価点制度など、極めて専門性の高い領域です。私は20年以上の行政経験において発注担当者も務めてきました。その実務知見に独自のマーケティング、会計、組織論を掛け合わせてコンテンツ化しています。私がよく例えるのは、入札は単なる「札入れ」ではなく、いわば「トライアスロン」や「総合格闘技」のようなものだということです。

─多角的な能力が求められるということですね。

谷口 単に金額を提示するだけでなく、多様な要素を戦略的に組み合わせることが重要になります。そこを独自メソッドとして提供し、案件獲得まで伴走支援をしています。企業としてこの領域に本格的に取り組んでいるところは、国内でも数社程度しか存在しません。その希少性もあり、多くの企業様から関心をお寄せいただいています。

─最新テクノロジーとの掛け合わせについても教えてください。

谷口 入札という分野は、実は「AI」と非常に相性が良いのです。詳細は企業秘密となりますが、AIが極めて高いパフォーマンスを発揮する領域があります。現在は、自身の経験と分析結果を体系化した独自メソッドを軸に展開していますが、今後はこれらをさらに仕組み化し、より確実に入札を勝ちとれる体制を構築していく方針です。

2026年10月の法改正は「経営者を取り締まる法律」

もう一つの柱である「カスハラ対策支援」も、非常に引き合いが強いとお聞きしました。

谷口 こちらも先駆者が少ない分野であり、多くの相談をいただいています。私自身、市役所時代に窓口で2万件以上のカスハラを経験しました。同じ方から長期間にわたる執拗な攻撃を受けたこともありましたが、最終的にはわずか3分ほどで解決に導く術を身につけました。その経験を活かし、著作も出版しています。直近では第二東京弁護士会労務社会保険法研究会が弁護士会で実施する研修会でカスハラに関する講師として登壇しました。

─サービス業の労働組合「UAゼンセン」の調査(2024年発表)では、2年以内にカスハラ被害に遭った人は46・8%に上り、約2人に1人が経験している現状が明らかになっていますね。行政という枠組みを離れ、あえて民間企業のこの深刻な実態に切り込まれたのはなぜでしょうか。

谷口 交流会などで各業界のお話を伺うと、民間企業においてもカスハラを原因とするメンタル不調者が続出している現実に突き当たりました。知人の中にも被害経験者がおり、私の培った知見が社会に役立てるのではないかと確信したのです。

─2026年10月にはカスハラ対策に関する法整備(改正労働施策総合推進法)が施行されます。経営者にとっては大きな転換点になりますね。

谷口 2026年10月に施行されるこの法律について、多くの方が「カスハラを行う側を罰する法律」だと誤解されています。しかし、実態は全く逆で、これは「経営者の不備を問う法律」です。経営者に対し、従業員を守るための適切な措置と体制整備を義務付ける内容となっています。

─「経営者の責任を問う」という視点は、まだ十分に浸透していないように感じます。

谷口 かつては「現場で丸く収めてこい」という精神論が通用したかもしれません。しかし、今はSNSによる拡散リスクや深刻な人手不足という時代背景があります。従業員の離職は経営上の致命傷となります。もはや従業員を使い捨てにするような旧来の体質は維持できません。経営者が意識を変えるしかない時代が到来したのです。
 今後はこの法律に基づき、安全配慮義務違反として経営者が巨額の賠償責任を問われる事態も十分にあり得ます。経営者にとっては耳の痛い話かもしれませんが、これが直視すべき現状なのです。

9割は「感情」の問題
カスハラ化を防ぐ初期対応

─どこからがカスハラになるのか、その法的な「境界線」に悩む企業も多いと思います。

谷口 カスハラ対策の話をすると「どこまでがカスハラか」という質問をよく受けます。もちろん法的な定義はありますが、やや抽象的です。厚労省の指針でも総合的判断とされており、明確な線引きはできないという前提があります。
 一方で、現場で起きているクレームの9割は感情的なものです。残りの1割は金銭目的ですが、最初の段階で対応を分ける意味はありません。どちらのケースも顧客の不満に対して説明が不足したり、初期対応を誤ったりすることで感情が悪化し、それがクレーム、そしてカスハラへと発展していきます。つまり、カスハラの大半は「初期対応の失敗」で起きているのです。

─初期対応において、どのような対応が「カスハラ化」を招いてしまうのでしょうか。

谷口 お客様の問題を解決しようとした時に寄り添う心が欠如し、マニュアル通りの機械的な対応をしてしまうことです。逆の立場になればよく分かるはずですが、血の通っていないマニュアル通りの対応をされると、人は誰でも噛みつきたくなるものです。
 私の経験上、特定の社員を名指ししてくる匿名の電話が2カ月以上続いたケースでも、相手が何かヒントを与えてくれた瞬間にすかさず共感を示し交渉を展開することで、笑顔で終了させることができました。他にも、対応している様子をYouTubeにアップロードされそうになった事案では、名誉棄損や録音をほのめかしながらもまずは共感を示す。大声で怒鳴り、1時間以上窓口にへばりつくような顧客に対しては、対面ではなく横に並んで共感し、できない理由と背景をしっかり説明して交渉します。「人はどんな理由でも言われると納得してしまう」というプラシーボインフォメーション効果も働き、納得して帰っていただけるのです。

─認知症や精神疾患が疑われる方など、対話が難しいケースもあると思います。

谷口さんの著書

3分で相手が笑顔に変わるしつこいクレーム・カスハラ交渉術~クレーム対応は「第一声」が成功の鍵!~
自治体職員として窓口・電話で直接クレーム処理をしてきた谷口さんの実践ノウハウがこの1冊に凝縮。マンガやクレーム対応物語もあり、見ても、読んでもわかりやすいクレーム・カスハラ対策本。

「浦島太郎」のアバターになって、メタバース・Web3・AIがスラスラわかる本 XR、NFT、DAO、DeFi、ChatGPT、生成AIまで
浦島太郎の「メタバース」空間に入った主人公が、ナゾのキャラクター「カメ」の指導のもと、メタバースやWeb3、AI などの仕組みを学んでいく物語。「浦島太郎の物語」に沿って、全体像をわかりやすく解説している。


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