責任政党たり得る自民党とポピュリズム─真の保守再生と「戦後レジーム」からの完全脱却


2026年1月号 そこが聞きたい! インタビュー

有権者から見れば、自民党は迷走を続けているように映る。「リベラル化」が進み、かつて党を支えた岩盤支持層が離反する現状に対し、国防の最前線を知る鬼木氏は「都市政党化する自民党」に強い危機感を抱く。ドイツ大使館で語った台湾有事への「抑止力」の本質、自衛隊員のリアルな処遇改善、外国人土地取得問題や米不足騒動で見えた官僚依存の弊害、さらにはSNSポピュリズムが蝕む政治の深層まで──。国会議員としての「正論」と、日本を守り抜く覚悟を余すことなく聞いた。

鬼木誠氏 衆議院議員

昭和47年(1972)、福岡県生まれ。衆議院議員(5期)。九州大学法学部卒業後、西日本銀行(現西日本シティ銀行)に入行。平成15年、福岡県議会議員に初当選し3期務める。平成24年、衆議院議員初当選。環境大臣政務官、防衛副大臣兼内閣府副大臣などを歴任。自民党内では国防族として知られ、安全保障政策に精通する。現在は自由民主党政務調査会厚生労働部会長。

「生産者」と「経営者」を見捨てた自民党

―有権者にとって、今の政治状況は非常に分かりにくい状態になっています。野党が合従連衡したかと思えば、与党である自民党は公明党から連立を離脱されました。自民党の伝統的な支持層が徐々に、しかし確実に離れているように感じます。長年、党のど真ん中にいらっしゃる立場から見て、この現状をどう分析されますか。

鬼木 ご指摘の通り、岸田政権以降、自民党がだんだんとリベラルな方向へシフトしていったという評価は否めません。その結果、本来の保守層が離れてしまったというのは確実にあると思います。先日の両院議員懇談会でも私は挙手をして発言したのですが、結局のところ、自民党はもともとの支持基盤をごっそりと失いつつあるのではないかと。

―具体的には、どのような層が離れているのでしょうか。

鬼木 一言で言えば、「配慮による方向転換」を原因とする失敗です。リベラルに配慮しすぎて保守層が離れ、消費者に迎合しすぎて生産者が離れ、労働者に配慮しすぎて経営者が離れたということです。かつて自民党を支えていたのは、額に汗して働く第一次産業などの生産者や、リスクを負って経済を回す中小企業の経営者、そして地方の保守層でした。支持を広げようとウイングを左へ、つまりリベラル側へ広げた結果、足元で党を支えてくれていた岩盤支持層を失ってしまった。これが昨今の選挙結果にも如実に表れているのではないでしょうか。

「水」と「食料」を忘れた都市の傲慢

―かつて自民党は「国民政党」として、都市部から地方の農村部まで幅広く声を吸い上げていましたが、今は完全に「都市政党」になってしまった感があります。東京都民は日本人の10人に1人、首都圏で言えば3人に1人が住んでいる。政策が多数決である以上、どうしても票数の多い都市の声が優先され、地方が置き去りにされています。

鬼木 それは強く感じますね。私は福岡市という政令指定都市の選出ですが、かつて福岡県議会議員を務めていた経験から痛感していることがあります。都市の人間は、自分たちの力だけで豊かになっているという錯覚に陥りがちです。ビルが立ち並び、経済が回っているのを見て「自分たちが稼いでいる」と思う。しかし、県議会にいれば実態が見えます。「私たちが毎日飲む水はどこから来ているのか」「食べている野菜は誰が作っているのか」。都市の豊かさは、実はすべて地方によって支えられているんです。

―その視点が国政では欠けていると。

鬼木 「あなただけが作った豊かさではないでしょう」と言いたいのですが、国会にいる都市部選出の議員にはその視点が希薄で、「自分たちが偉いんだ」という一種の「都市部の傲慢さ」のようなものがあります。その結果、地方への配慮やリスペクトが欠け、政策がどうしても都市偏重になってしまう。「地方切り捨て」という言葉がありますが、現実にそれが進行しているのです。

―その象徴が選挙区の区割り問題です。「一票の格差」是正の名のもとに、地方の議員定数が減らされ続けています。

鬼木 民主主義の理屈とはいえ、一票の格差是正を厳密にやりすぎた弊害が出ています。人口比だけで割れば、当然都会ばかりに議員が増えていく。挙句の果てには、参議院で鳥取と島根が合区され、「2つの県で1人」しか代表を出せない状況まで生まれてしまった。これは最高裁が格差是正を違憲だとしたことが発端です。あまりに厳格にしすぎた結果、地方の声が国政に届かないシステムになってしまったのです。自民党に限らず、立法府全体において地方の声を代弁する議員が相対的に少なくなっています。自民党以外に地方の声を拾える政党が見当たらない中で、これは国家の形として由々しき問題です。

裏金報道の「実態」

―党内の話で言えば、派閥の政治資金問題もありました。世間からは「裏金」と厳しく批判されましたが、小選挙区制では、どうしても党の公認権に縛られすぎます。もう一つはお金の問題です。いわゆる裏金問題と騒がれましたが、実態としては、派閥のパーティー券と自分のパーティー券を売らなければならない中で、派閥の方を優先して売り、ノルマ以上売った分が活動資金として戻ってきていただけという見方もあります。

鬼木 もちろん中には倫理観を欠いた使い方もあったかもしれませんが、基本的には収支報告書に記載さえしていれば、何の問題もなかった話です。政治活動にはコストがかかります。スタッフの人件費、事務所費、選挙区内の移動費など、戻ってきた資金も政治活動に使われているのが大半でしょう。

―一方で、政党助成金の問題もあります。

鬼木 政党助成金は党幹部、特に幹事長クラスがかなり自由に使える側面があり、過去にはどう使ったのか不透明な例もありました。私が所属していた派閥の森山裕先生は幹事長時代にそういった私的な使い方は一切していないように見受けられましたが、仕組みとして党本部に権限と金が集中しすぎている。これが議員の自律性を奪い、党の顔色ばかりを窺う議員を生む構造にはなっているかもしれません。党としてのガバナンスと、議員個人の政治活動の自由、このバランスをどう取るかが問われています。

―ただ、国民からは自民党内での議論が不活発になっていると映っている感じもします。

鬼木 まだ党内議論は盛んだと思います。安倍政権の時に入国管理法改正法案を審議していた時にこれは移民政策だと猛反対したのは、私と青山繁晴参議が代表を務める「日本の尊厳と国益を護る会」でした。安倍さんほどの保守政権でもおかしなことが起こるわけで、党内の議論は必要ですし、現に今でも党内議論は活発です。

─とは言え、公認権を持っている党本部からにらまれる恐れはありますよね。それをあえて議論する勇気のある議員が党内にいるということは大事なことです。

鬼木 政権の支持率が高いからと言って臆してはいけません。おかしいという法案が出てきたら徹底してやるべきです。

「存立危機事態」発言は「言葉による抑止」

―外交・防衛について。高市総理が予算委員会で「台湾有事は存立危機事態になり得る」と発言し、中国が反発しています。防衛副大臣も務められた立場としてどう考えますか。

鬼木 あの発言の直後、私は防衛の専門家としてドイツ大使館に招かれまして、ドイツの大使館員たちと意見交換を行いました。彼らの最大の関心事は「高市氏の発言の真意は何か」という点でした。欧州、NATO諸国としても、アジアで紛争が起きるのは困るわけです。アメリカの手がそちらに取られれば、自分たちの守りが手薄になりますから、「いい迷惑だ」というのが本音でしょう。

―そこでどう説明されたのですか。

鬼木 私の見解として、あれは「言葉による抑止」だと説明しました。中国はこれまで、いわゆる「サラミスライス戦略」をとっています。サラミを薄く薄く切るように、相手が抵抗しないギリギリのラインで少しずつ現状変更を行い、既成事実化していく。いじめっ子と同じですよ。何をされても怒らない相手には、エスカレートして最後には身ぐるみ剥がされてしまう。「時計よこせ、服も脱げ」と裸でグラウンドに放り出されるまで止まらないのです。

―かつて中国の潜水艦が領海内を潜航したのも、日本の出方を窺う「瀬踏み」だと言われますね。

鬼木 そうです。どこまでやったら日本が出てくるのかを見ている。だからこそ、「ここまで踏み込めば日本は怒る、存立危機事態として動く」というレッドラインを言葉で明確に示す必要があります。これまで日本政府は「事態をエスカレートさせない」ことを最優先にしてきましたが、中国のサラミスライス戦略はずっと続いてきた。そこで高市氏のように具体的な事態への対処を明言することは、逆に有事を防ぐための一定の価値がある抑止力になります。ドイツ側にも「これは必要なアクションだ」と伝えました。

―しかし、経済的な報復、インバウンドへの影響などを懸念する声は根強いです。

鬼木 中国からの団体客が減ったというホテルもありますが、福岡の現場を見ていると、代わりに欧米など他国の客が増えており、全体としては大きな打撃になっていないという声も聞きます。「中国人が来なくなって料金は下落したのか」と聞けば、そんなことはないと。

―中国ビジネスのリスクについては。

鬼木 中国にとっても日本企業は重要です。例えば、イオンなどは中国内陸部に出店し、現地の雇用や物流を支えています。中国は内陸部の発展が課題であり、そこで雇用を生む日本企業を追い出せば、自分たちの首を絞めることになる。日中は経済的に相互依存関係にあり、極端な排斥を行えば中国自身も困ることになる。お互いに持ちつ持たれつですから、そこは冷静に見て、過度に恐れる必要はないでしょう。


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