2025年7月号 そこが聞きたい! インタビュー

少子化の加速が止まらない。結婚、妊娠・出産、子育てなど政府が講じる少子化対策は今のところ全く効果が出ていないのが現実だ。久保田氏は少子化の根本的な原因は、お産の現場と冷え性にあると提唱する。そして、「このままでは日本は滅びる」と警鐘を鳴らす。
久保田史郎氏
昭和20年(1945)年生まれ。70年東邦大医学部卒、同年九州大学麻酔科に入局、72年産婦人科へ移籍、83年福岡市平尾で久保田産婦人科麻酔科医院を開業、2017年閉院。34年間で1万6,000人のお産に立ち会う。閉院後は郷里の佐賀県富士町で株式会社「風」、久保田予防医学研究所を立ち上げ、執筆と講演活動で「久保田式産科学」の普及に努める。近著に『発達障害の原因は『お産の現場』にあった!カンガルーケアと過剰な完全母乳が赤ちゃんの脳をおびやかす』(ヒカルランド)がある。
「冷え性は万病の元」
―去年1年間に国内で生まれた日本人の子どもの数は68万6061人となり、前年より4万1227人減少し初めて70万人を下回りました。9年連続で出生数が減少し歯止めがかかるどころか加速しています。少子化の背景にあるのは何でしょうか?
久保田 冷え性が原因です。日本も含めた欧米先進国では軒並み少子化が進んでいて、その一方でアフリカ諸国は軒並み合計特殊出生率が高いのはなぜか。先進国には冷房があり、アフリカにはないという点に着目しました。先進国には冷え性になる人が多く、アフリカではいないのです。もう一つの原因は、車社会です。歩かなくなり筋力が衰え体温が下がりました。また、長時間のデスクワークも冷え性の原因です。このままでは日本は本当に滅んでしまいます。厚労省は平成2年(1990)に2040年に出生数を74万人と推計していましたが、それよりもかなり早く少子化が進んでいます。私は、早くから2030年には30万人になると警告していました。
―そもそも冷え性とは何ですか?
久保田 先人の教えに「冷え性は万病の元」という格言がありますが、なぜ冷え症の人が増えたのか、なぜ「万病の元」なのか。
恒温動物である人間の体温はもともと37℃だったのですが、運動不足(筋力不足)の現代人は36℃かそれを下回る人が増えて、日本人の多くは冷え性に陥っているのです。人間は体温を37℃に保持するために自律神経の体温調節機構が働き、とくに手足の末梢血管を収縮させ放熱を防ごうとします。人間は体温の下降を防ぐために全身の末梢血管を細くして放熱を防ぎます。その結果、下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少し、手足のみならず、すべての臓器に血流障害を引き起こし、病気・難病をつくり出しているのです。
心臓から出た動脈血は大動脈を経て腸管、肝臓、腎臓、子宮などの内臓に供給され下肢まで下りてきます。臓器に酸素と栄養を運んだ動脈血は静脈血となり、再び、心臓に戻り、さらに肺で酸素化させるという血液の循環サイクルで人間は健康を保っています。体内を循環した血液を心臓に戻す力は心臓が拡張する時の陰圧ですが、とくに長時間のデスクワークをした場合、下肢から心臓に戻すにはどうしても血液を押し上げる力が必要です。ところが、冷え性になると末梢血管が持続的に細くなるため静脈還流量が減少します。そのため臓器が機能障害に陥り病気を引き起こします。夕方になると下肢がむくむのは病気の前兆です。
例えば、冷え症で腸や卵管への血流量が減少すれば、ぜん動運動が抑制され、便秘や不妊症などの疾病を引き起こします。特に子宮・卵巣・卵管の生殖機能は障害を引き起こし、卵管のぜん動が抑制され不妊症になります。冷え性は男性生殖器にも悪影響を及ぼし、精子が半分になったり無精子症にかかる人が多くなりました。また、発情しなくなります。
動物は寒い冬から温かい春に向かって発情しますが、人間も同じです。ところが先進国では男女とも冷え性で発情しにくくなっています。最近の若者が異性・セックスに関心がいかなくなっている背景には冷え性が影響しているのではないでしょうか。
少子化の社会的要因の一つとして男女共同参画があります。つまり、女性が社会に進出してデスクワークをやるようになって冷え性が増えました。以前の高齢出産は30歳からとなっていましたが、現在は40歳に引き上げられています。
発達障害の本当の原因
―冷え性が赤ちゃんに大きく影響し発達障害児が増えている要因だとも主張していますね。
久保田 私は麻酔科からスタートしました。麻酔科では体温、自律神経、呼吸、循環を学びます。特に体温に関心を持ったのは、手術室が寒く、手術を終えた患者さんが体温が低いまま帰室すると術後合併症が増えるケースを多く経験しました。麻酔科で2年間、臨床体温をしっかりと学んだ後に産婦人科に進みました。2017年に閉院するまで約1万6000人、大学病院時代を含めると2万人以上の赤ちゃんを取り上げ、体重発育や体温の変化、血糖値、重要黄疸などに関する臨床データを蓄積してきました。その結論が、新生児の冷え性と飢餓が発達障害を発生させる原因という結論に至りました。
生まれたばかりの赤ちゃんの顔色が紫色(チアノーゼ)になって、目を閉じて、手をグーに握りしめて産声をあげる光景はよく見られます。産婦人科の先輩たちは「それは生理的現象だ」とおっしゃいますが、麻酔科の知識がある私には赤ちゃんが寒さに震えているようにしか見えません。そこで出産直後の赤ちゃんを特例で保育器に入れてもらうことにしました。
温かい保育器に入れると、赤ちゃんは20分もしないうちに目を開けて、指をくわえてそして指を舐め始めました。おっぱいを欲しがっている様子だったので糖水を飲ませました、すると先輩から「すぐに飲ませると吐いてしまうから危険だ」と注意されましたが、吐くこともなく胎便もたくさん出ました。胎便の中には黄疸の基になるビリルビンが多く含まれています。胎便の排泄が遅れると、腸管から血中へ胎便中のビリルビンが再吸収(腸肝循環)され、その結果、血中ビリルビン濃度が高くなり高ビリルビン血症(重症黄疸)の原因になります。
―新生児の低体温症と低血糖症(飢餓)が発達障害の原因だと指摘しています。
久保田 WHOは1975年に母乳促進運動を始めます。これはアフリカで飢餓の赤ちゃんが多数亡くなっていたのでWHOが粉ミルクを支援物資として送りましたが、現地で不衛生な水でミルクを溶かしていたため感染症で多くの赤ちゃんが亡くなりました。問題は不衛生な水に問題があるにもかかわらず、粉ミルクを問題視し母乳推進へと舵を切りました。1989年、WHOとユニセフが「母乳を成功させるための10カ条」を発表しました。いわゆる完全母乳です。日本では1993年に厚労省がこれを支持しました。発達障害はこれを境に驚異的に増えていきます。福岡市のデータを取ると、完全母乳の普及が始まってから間もなく発達障害の数は5倍に増えてしまいました。
―なぜ低血糖症が発達障害の原因になるのでしょうか?
久保田 赤ちゃんが生まれて3日間、とくに初産婦のお義母さんはほとんど母乳が出ていません。お腹の中では赤ちゃんはへその緒からお母さんの血液を通して糖分や栄養を摂っています。生まれた時にへその緒を切られた赤ちゃんは自分で栄養を摂らないといけないのに、おっぱいがほとんど出ていないから栄養不足、飢餓状態になります。糖分の供給が絶たれると血糖値が下がります。糖分は赤ちゃんの脳細胞神経の唯一の栄養源です。生まれたばかりの赤ちゃんが低血糖状態が続くと脳に障害を遺す危険性があり、これが発達障害の原因になります。また、栄養不足に陥ると赤血球が壊れやすくなり、黄疸の原因になる赤血球の代謝産物であるビリルビンが増えます。
―生まれたての赤ちゃんをすぐに素肌の胸に抱く「カンガルーケア」も発達障害の原因だと指摘していますね。
久保田 分娩室は赤ちゃんファーストではなく大人ファーストになっています。分娩室の温度は世界共通で25℃前後に設定されています。お腹の中の赤ちゃんの体温は38℃ありますからその温度差は13℃もあります。その寒い中で赤ちゃんは生まれています。赤ちゃんはそんな過酷な寒さの中に置かれているんです。数年前に福岡の高校の体育祭でそれまで外気温が30℃だったのが突然の風雨で7℃気温が下がり、元気盛りの生徒たちでさえも低体温症で倒れて救急車で病院で運ばれました。
低温の分娩室で赤ちゃんは寒さで震えているのです。なぜ、低体温が発達障害の危険因子になるのか。