物流新幹線網で日本経済再生へ─環日本経済圏構想と青森国際コンテナ港構想


2025年6月号 そこが聞きたい! インタビュー

前号では東京一極集中是正には地方が通貨発行権と予算執行権を持つべきだという構想について聞いた。第2弾は、物流新幹線網による日本経済再生構想について。日本全体を物流新幹線で結び、さらには日本海を囲む国々との経済圏構想とはなにか─

大矢野栄次氏

昭和25年(1950)、愛媛県生まれ。中央大学経済学部卒。東京大学大学院経済研究科博士課程単位取得退学。佐賀大学経済学部講師、同助教授を経て、久留米大学経済学部教授。令和3年(2021)から同名誉教授。経済学博士。理論経済学が専門で、経済学の視点で日本の歴史も読み解いている。著書に『ケインズの経済学と現代マクロ経済学』(同文館出版社)、『ミクロ経済学』(五絃舎)、『「太宰治の津軽」の経済学』(五絃舎)など多数。(参考資料:『九州発「国のかたち」を問う~日韓トンネル構想への期待~』(「国のかたち」提言委員会編 三岳出版社 2020)

東京一極集中の是正は物流で

―まず、東京一極集中についてどう見ていますか?

大矢野 私は肯定的に捉えています。江戸時代も江戸一極集中でしたが、各藩も力を持っていました。それは各藩の中心地一極集中で力を蓄えていました。そういう意味では、地方の中での一極集中があってこその東京一極集中なのです。行き過ぎた東京一極集中を是正するための地方への分散と言う時、例えば、福岡県のいち山村を経済的発展させる必要はなく、福岡市などの地方の拠点都市への一極集中を強化することが東京一極集中を弱めることに効果があります。

人口減少については、首都圏人口3000万人は確かに過剰です。即ち生産性が低いのです。生産性を高めるのなら過剰な労働人口1000万人を地方に分散すべきです。また、首都圏では高齢化が確実に進んでいます。ある自治体が市町村合併したら旧中心自治体に高齢者が移住して、高齢者の一極集中現象が起きました。高齢者にとって都市が便利で生活しやすいからです。これは東京も同じで高齢者が集中しています。

―その一方で現役世代が郊外に出るという一種のドーナツ現象ですね。

大矢野 オーストラリアから輸入された石炭や中近東から輸入された石油は、瀬戸内海西部のコンビナートに貯蔵されています。そこから東に向かって製鉄、組み立てと加工度が上がって最終生産物は東京、名古屋、大阪で完成します。これが物流の基本です。北海道は東京に向かって加工度が上がっていきます。

このように地方から東京などの大都市に向けて加工度が上がる物流になっているのですが、その完成品が一部地方にバックされていません。それは日本海側です。東海道と瀬戸内海の物流はできあがっていますが、加工度が上がる物流が日本海側にないので、秋田、山形、新潟のルート、島根・鳥取からのルートを作るべきです。

―それが東京一極集中を是正させる方法だと。

大矢野 是正というよりは密度を下げると表現した方がいいかもしれません。若い労働力が大都市に出てきて過剰な労働力を生んでいる現状を是正し、生産性を向上させるには、日本海側に加工度を上げる物流をつくれば、地元に工場ができますから大都市に出なくても済みます。日本海側に産業構造の一部を移転させれば、東京などの過剰人口が減ります。これを物流で実現できます。

―この物流を担うのが、提唱されている「物流新幹線」ですね。

大矢野 物流新幹線網をつくれば自ずとそうなるはずです。今の物流網は太平洋側と瀬戸内海に偏在しているので分散することで解決する問題はたくさんあります。また、南海トラフ、津波、外国からの攻撃などリスクを分散するためにもやるべき政策です。

物流新幹線網の必要性

―昭和45年(1972)に発表された田中角栄氏の『日本列島改造論』では、すでに新幹線網を全国に網羅させ、国土の均等化を提唱しています。

大矢野 本来の鉄道の目的は貨物輸送で旅客は主たるものではありません。新幹線も本来は貨物輸送に使われるべきなのです。角栄氏も新幹線による貨物輸送を想定していました。当然のことです。物流=兵站ですから、それを前提に考えれば全国を物流新幹線で結べば産業の再配置もできます。

整備新幹線は博多―長崎の九州新幹線・西九州ルートで終わります。国はまだ発表していませんが、その後の新幹線計画は物流新幹線の整備になるはずです。すでにJR東日本は青森―東京間で新幹線による荷物輸送を始めています。すでにコンテナと大型トラックをそのまま輸送できる新幹線は設計されています。今後の物流を考えた時に、物流新幹線は必要不可欠な手段になるはずです。

―すでに現実になっている「2024年トラック問題」ですね。

大矢野 働き方改革で、年次有給休暇の時季指定、時間外労働の上限制限、同一労働同一賃金が施行され、2030年には3割以上の荷物がトラックで輸送されないという試算が出ています。関東は北海道・東北から、関西は九州6県から運ばれる食糧にかなり依存していますから、深刻です。すでにトラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換するモーダルシフトは国交省も進めていて、根本的に解決できるのも物流新幹線です。CO2排出の環境問題、物流コスト抑制にも有効的です。

フル規格新幹線1編成で全長12メートル、幅2.5メートル、高さ3.8メートルの大型トラックが24台輸送できます。例えば、トヨタの大型トラックを物流新幹線で運べます。また、物流新幹線を夜間に走らせれば、夜間余剰電力を活用できます。旅客新幹線が止まっている0時から6時頃までは電気重要量は半分程度で、この時間帯に物流新幹線を集中的に走らせれば、昼間のトラック輸送による石油資源の浪費を抑え、昼間時間帯の電力需要も減少させることができます。

夜間の余剰電気を利用した無人運転による電力、人件費節約などで現在のトラック輸送費用より5分の1から6分の1の費用で都市間、地域間の貨物輸送が可能になります。輸送コストの低減で商品・サービスの価格競争力が向上し、ひいては国際競争力の向上につながります。

―中には余剰電力はないという声もありますが。

大矢野 結論から言えば、各電力会社は夜間に必要に応じて昼間の電気量と同じ量の発電は可能です。なぜならば、原子力発電や火力発電の窯の火は24時間点いていて水を温めて蒸気を作っているので沸騰水は24時間発電できる状態にあります。夜間は電気需要が少ないので蒸気をタービンに充てて回していないだけで、需要があればタービンを回すことは可能です。これを余剰電力と定義しているのです。

夜間の電気を活用することで資源の無駄遣いが減って電力会社は僅かなコスト増以上の収入が得られて、その結果電気料金を引き下げられます。節電と違い、電力の需要パターンの一部を昼間から夜間に移すだけで過剰電力の需要を生み出すことができます。また、石油資源の節約にもなり、経済全体のエネルギー節約の観点からも、物流新幹線は二酸化炭素排出量減少のためにも重要な産業構造改革政策なのです。

青森に国際コンテナ港を

―物流新幹線構想の中で青森の重要性を主張していますね。

大矢野 青森が持つ地理的ポテンシャルに注目していて、青森の陸奥湾にある蟹田港を国際港にすべきだと提唱しているところです。大型化している国際コンテナ船が寄港するには15メートル以上の水深が必要ですが、陸奥湾はその条件をクリアしています。アメリカ西海岸発のコンテナ船の太平洋航路は中国の天津港・大連港から韓国の釜山港と西海岸を航行していますが、陸奥湾の目の前の津軽海峡を通過しています。

つまり、日本の港で西海岸に一番近いのは横浜港ではなく蟹田港なんです。日本の対米コンテナ輸送は釜山港か台湾の高雄港が輸送ルートの中継基地になっていて、津軽海峡を2度通らないと日本の港から西海岸へは貿易できないのが現状です。これを青森の蟹田港に直接持ってくれば、コストと時間がかなり節減されます。物流の北海道の食糧を東京に送る青函トンネルの本州側の玄関口は青森ですから、津軽半島の国際物流と国内物流の拠点性は極めて高い。

―そうなると、陸送のコスト削減のために青森や北海道に生産拠点も配置されることになりますね。

大矢野 青森経済圏と函館経済圏に生産基地ができれば他の東北地方にも加工機能が集積され、関東に運ばれる物流体系ができあがります。青森の人たちには、「これまでの『出稼ぎに出る町』から、『出稼ぎに来る町』に替えよう」と呼び掛けています。


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