2026年9月号 そこが聞きたい! インタビュー

深刻な人手不足と生産性向上が叫ばれるなか、大きな注目を集めている「AIの業務実装」。しかし、地方の中小企業においては「何から始めればいいのか」「IT人材がいない」という悩みが尽きない。こうした状況下で「自社業務を自動化し、26人分の業務を1人で担える体制を構築した」という圧倒的な実務レベルでの成果を出し、現在多くの企業へAI研修や伴走支援を行う株式会社AX(本社・福岡市)の石綿文太社長(31歳)に話を伺った。単なるAI導入論にとどまらない、経営の根本から見直す「AI導入のリアル」と、これからの経営者に求められるマインドセットに迫る。 (聞き手:本誌副編集長 飯牟礼信一郎)
株式会社AX 代表取締役・石綿文太氏
株式会社AX代表取締役。東京都出身。2歳から16歳まで子役として活動後、高校中退を経て18歳で起業。イベントやケータリング事業、ウェブ制作会社などを経て、21歳でデジタルマーケティングの世界へ。また、高知県の限界集落にて3年間の地方創生NPO活動も経験する。コロナ禍を機に福岡へ移住。2022年から生成AIに触れ、その後自社業務を自動化し、26人分の業務を1人で担える体制を構築。そのノウハウを活かし、現在は企業のAI導入から事業開発まで、包括的なコンサルティングサービスを提供している。
株式会社AX(エーエックス)
所在地(本社):福岡市中央区大名1-3-29-7F
公式サイト:https://a-x.inc/
圧倒的な業務効率化──
約9カ月で「26名から1名へ」
─「自社業務を自動化し、26人分の業務を1人で担える体制を構築した」という圧倒的な実績は、多くの経営者に衝撃を与えています。まずは現在の事業の概要からお聞かせください。
石綿 「1000万時間を解放し、世界の創造性を爆発させる」というミッションを掲げ、法人向けのAI研修・伴走支援『AX CAMP』やAIエージェント開発事業などを展開しています。現在のAI事業は、もともと自社の広告代理業などの業務効率化を図るために開発と検証を始めたことからスタートしました。その結果、約9カ月で26名で行っていた広告運用やインサイドセールス(電話やメールなど非対面で行う営業活動)の業務を1名で担える体制を構築したことで、現在ではその実務経験とノウハウをベースに、多くの企業のAIを活用した組織づくりを支援しています。
─AI関連事業に関する問い合わせの6割が東京の企業からとお聞きしました。福岡に本社を置きながらも全国から注目を集めていらっしゃいます。もともとは東京で事業をされていたとのことですが、福岡移転のきっかけは。
石綿 コロナ禍に入ってフルリモートで仕事ができるようになったのを機に、2020年に福岡に移住しました。日本全国を北から順に巡ってみて、人が温かくて住みやすい福岡が気に入りました。当時は独身だったのですが、妻と出会い、家も買いましたので、ずっと福岡にいるつもりです。この街に移って本当に良かったと感じています。
─ご出身は東京で、子役としてテレビ番組やCMなどで活躍されていたと伺いました。
石綿 16歳まで子役をやっていました。ただ、どうしてもやりたいわけではなかったので、高校生になって自分でアルバイトをして稼げるようになったタイミングで、親に「一旦休止したい」と伝えて辞めました。
─そうした異色の経験が、起業や現在のビジネスへの思いにつながったのでしょうか。
石綿 子役を辞めた後、自分の力で稼ごうと決めていて、高校卒業の7日前に中退して起業しました。「高卒」より「中卒」の方がネタとして使えると考えたからです。最初はイベントやケータリング系の事業を立ち上げ、それを事業売却して、ウェブ制作の会社をやっていました。そして21歳ぐらいの時にウェブマーケティングの世界に入りました。
─そこから現在のようにAIを用いた劇的な業務効率化に行き着いたきっかけは。
石綿 2024年の6月頃から、AIで自社業務を自動化できそうだなという実感があって、実際の仕事をAIで代替する開発と検証を本格的に始めました。
─当時はまだAIによる自動化というより、チャットで会話ができたり、調べ物ができるというくらいの認識の人が大多数だったと思います。
石綿 実は2022年ぐらいから知り合いのエンジニアに教えてもらいながらAIを触っていました。もともとエンジニアリングが好きで新しい技術に興味がありましたし、ウェブマーケティングに関わるSEO(検索エンジン最適化)やSNS、広告運用も結局はアルゴリズムのハックなので、分析するのが好きだったんです。そして、AIを触っているうちに私自身にそれまでにない「熱」が生まれていたように思います。
失敗から得た教訓──
AI導入を阻む「時間」と「評価」の壁
─社内でAIによる業務効率化を進めた際に苦労やスタッフとの摩擦はありましたか。
石綿 うちのスタッフはもともと学ぶ文化が強かったので、AIを学ぶことへの抵抗はあまりなかったのですが、AIでの業務効率化については社内でのハレーションが非常に多かったです。当時はまだ世の中的にも使い物にならないレベルのAIがほとんどだったので、「本当にそんなことができるの?」と懐疑的なスタッフが多く、結果的に辞めていくスタッフもいました。
─ウェブマーケティングは専門的であり、積み重ねたノウハウを提供するサービスですね。当時、それがAIにできるのかとスタッフの方が思うのもわかる気がします。
石綿 みんなマーケティングがやりたくて参画しているので、既存の事業の枠組みで無理に進めるのではなく、AIでの業務効率化に特化した別会社を立ち上げるべきだったなという反省があります。非常に優秀な人材も辞めて独立してしまったのは少し後悔している部分です。それでも、残ってくれたメンバーに対しては、「自分の業務を減らして空いたリソースを新規事業に充ててもらい、そこでの売り上げも還元する」という評価基準を設けて進めた結果、現場の業務を極限まで自動化する体制を構築することができました。
─当時のそうしたリアルな苦労や失敗経験そのものが、結果的に今の強力な支援のノウハウとして生きているわけですね。
石綿 自分たちでハレーションや失敗を経験しながら、「既存業務と並行させるのではなく、新しい取り組みのための時間を確保してやり抜かないと絶対に成功しない」という生きた教訓を得られたからこそ、今の支援事業の説得力につながっているのだと思います。現在のクライアントでも「AIをやりたいけれど、結局リソースを空けられない」という企業は多いのですが、私たちが最初にそこで苦労したからこそ、今は契約の段階から「明確に時間を切り分けないと無理です」と確信を持ってお伝えできるようになりました。
─実際に導入支援に入る際、「時間の確保」以外にはどのような障壁があるのでしょうか。
石綿 もう一つ重要なのが「評価制度」です。トップダウンでこれを変えることが、AI導入を進めるうえで不可欠です。AIで効率化したことを正当に評価しなければ、現場はAIを導入しようとは思いません。この「時間の確保」と「評価制度」、そして「適性のある人材」、この3つが揃っていない状態で走ると、成果が限定的になってしまうことが多いです。
3つ目の鍵
AI推進を任せるべき「適性のある人材」とは
─時間や評価制度と並んで「適性のある人材」が不可欠とのことですが、具体的に社内でAI推進を任せるべき「適性のある人」とはどのような人物でしょうか。
石綿 まずは自社の「業務フロー全体をよく知っている人」であること。そして「自ら聞ける人」であることが重要ですね。一部の業務だけでなく、部署をまたいで周囲とコミュニケーションを取りながら全体を把握できる人や、AIにしつこいくらいに質問して答えを見つけようとする探求心がある人はかなり向いています。逆に「指示待ちの人」は向いていません。AIは向こうから「やりましょうか」とは言ってくれないですから。
─新しいITツールというと「まずはパソコンに詳しい若い社員に任せよう」と考えがちですが、必ずしも若い人が適任というわけではないのですね。
石綿 ジュニアレベルの若い人に丸投げしない方がいいですね。例えば、SNSで見つけたよく分からないAIツールを勝手に使ってしまい、結果的に会社の機密情報が漏れてセキュリティ事故につながるといったケースは十分に起こり得ます。そういった意味でも、会社に対する責任感やリテラシーを持ち合わせた、ある程度のポジションの人が担当する必要があります。
─誰がAIをコントロールするかが成果に直結してくるのですね。
石綿 結局のところ、AIというのは指示を出す人間の「分身」にしかならないんです。ですから、業務を理解した人材がAIを的確にマネジメントすることで、省人化や人手不足への対応という最大の経営課題を包括的に解決する手段になります。
─セキュリティ事故というお話が出ましたが、AI導入を検討する経営者からは、やはりその点の懸念や質問が多いのでしょうか。
石綿 一番よく聞かれるのがセキュリティについてです。ただ、例えばGoogleスプレッドシートも、会社が導入していれば、クラウドサービスであることを強く意識せず、WordやExcelと同じような感覚で使っていますよね。AIについても、法人利用を前提としたサービスを会社側で選んだうえで使うのであれば、必要以上に怖がるものではありません。むしろ、「セキュリティが心配だから」とAI導入そのものを止め、競争力を落としてしまうことの方が、これからは大きなリスクだと考えています。
―システムそのものを必要以上に恐れるより、会社が業務利用に適したサービスを選び、運用する体制まで考えることが重要なのですね。
石綿 そうですね。セキュリティは、システム側の対策だけを見て終わる話ではありません。先ほどお話ししたように、実際にどう使うかは人に委ねられる部分が残ります。だから、セキュリティの話も突き詰めると、「適性のある人材に任せる」という組織設計に戻ってくるんです。
─「時間とリソースの確保」「正当な評価制度」「業務を熟知した人材」という3つの土台のうち、実際の現場ではどこでつまずくケースが多いのでしょうか。
石綿 いざ進めていく中で、結局これまでの通常業務と並行させてしまい「本業が忙しくなったのでAIの取り組みは一旦ストップで」となってしまうケースが少なくありません。これは非常にもったいないことです。
AIは省人化の武器から「経営資源」へ
─企業規模によって、AI導入の効果に違いはありますか。
石綿 人数が多い大企業だと、業務が細分化されているのでAIによる業務効率化がやりやすいですし、削減できる時間数も含めインパクトは大きいです。当社の支援事例では、月1000時間以上の削減につながるケースもあります。
─一方で、中小企業は業務が属人化してしまっていて、「あのお姉さんに聞かないと分からない」といった状況がよくあります。
石綿 そうですね。ただ、事務作業や配送の管理など、絶対に人が手作業でやっている部分があるはずです。そういうところから着手すれば、効率化の余地は必ずあります。また、AIの導入に伴って業務の棚卸しができることで、経営課題が明確になり、さらなるAIの活用にもつながっていきます。
─実際にそうしたAIを活用した先進的な取り組みや、人間が担うべきコア業務に集中できる環境づくりを進めている企業は、新しい人材の「採用」にもつながりそうですね。
石綿 たしかに採用面での効果も期待できますが、AI導入の時点でそこまで気が回るのかという難しさはあります。ただ、「業務効率化したい」という時に、今はもう「前提としてAIがあるのだから、AIが代替できる部分があるならそこは人がいなくても回る仕組みをつくるべき」というフェーズに入っています。
─資金やITリテラシーが不足しがちな地方の中小企業や小規模事業者でも、AIを活用する余地はあるのでしょうか。例えば、地方創生という文脈でのAI活用について気をつけるべきことは。
石綿 導入にあたっては、「AIを使うこと」から入ってはいけません。実は私自身、20代の頃に高知県の限界集落で3年ほど地方創生のNPOに住み込んで活動していた経験があります。地方創生や人手不足解消においても一番重要なのは「何の課題を解決したいのか」を徹底的に言語化することです。その結果として、「では、その解決手段としてAIを使うのか、それとも人で解決するのか」という選択肢を検討すべきで、あくまでAIは手段の一つでしかありません。
─地方創生において、逆に「人間がやるべきこと」とは具体的にどのような部分でしょうか。
石綿 地方創生では最終的には「人」が集まってくることが一番重要になります。例えば、人をその地域に呼び寄せるためのツールとしてSNSを活用する場合、日々の運用作業自体はAIを使って少し楽にできるかもしれません。しかし、中身のコンテンツづくりや魅力の発信は、人が担った方が熱意が伝わります。逆にそこまでAIを使ってしまうと、本来の目的に反してしまい、むしろAIは使わない方がいいんじゃないかと思うくらいです。
─それは地方創生に限らず、すべてのビジネスやコミュニケーションにおいて言えることですね。
石綿 「人間が熱量を込めてやるべきこと」と「AIに効率よく任せるべきこと」の境界線をしっかりと見極め、的確に切り分けていく視点が欠かせません。
「戦略の再設計」──
AI時代を生き抜くためのマインドセット
─これからの「AI時代」を生き抜くためのビジネスにおけるマインドセットとは。
石綿 「経営戦略の再設計」です。これからの時代、経営資源の一つに当たり前のようにAIが入ってきます。これまで「人」しか選択肢がなかった業務がAIで代替できるようになるわけですから、現状のまま動いていては当然うまくいきません。AIという経営資源があるという前提で経営を再設計しない企業は、競争環境において負けていくことになります。
─経営課題の解決や業務の効率化もそうでしたが、経営そのものをAI前提で再設計する必要があるのですね。
石綿 「なぜうちの会社に頼むのか」「自社の何が良いのか」という本質的な価値を突き詰め、人にしかできない価値ある仕事にリソースを再配置しなければなりません。その時に「AIを導入するぞ」というツール先行ではなく、経営課題から決して目をそらさないことが重要です。
─まずは「自社がどうありたいか」を見つめ直す。その時にAIという経営資源を前提にすることで、人材の育成方法や評価基準も自然と見直されてくるのかもしれませんね。
石綿 経営資源に「AI」が加わるからこそ、逆に「人」の価値をもっと深く考える必要があります。そして、自社が本来やりたいことや本質的な強みとしっかり向き合い、「では、そのためにAIという選択肢を取るのがベストだ」と考える思考こそが、これからの時代に最も求められるマインドセットだと考えています。