暴かれた「15年の深淵」と二元代表制の覚醒─大刀洗町を揺るがした統治不全の全貌


2026年7月号 そこが聞きたい! インタビュー

一自治体事務のミスや不祥事という枠を遥かに超えていた。地方自治の根幹を揺るがす事態が発覚した大刀洗町行政で公金支出の不透明問題。百条委員会が41回に及ぶ審議の末にまとめた最終報告書は、宿泊費の不正受給と約15年という長きにわたり闇に葬られていた「移動販売かてて」の深淵と、それを許した監査機能の形骸化を克明に描き出していた。議会はいかにしてこの統治不全に立ち向かったのか。二元代表制の覚醒を主導した高橋直也議長に、暴かれた真相の全貌と、今後も行政運営の監視役としての不退転の決意を訊いた。

高橋直也氏 大刀洗町議会議長

昭和47年(1972年)、三井郡大刀洗町出身。平成27年(2015年)の大刀洗町議会議員選挙に初当選し、現在3期目を務める。令和5年(2023年)10月に議長に就任。
趣味は居合道(三段)。

2つの不正:
「宿泊費の不正受給問題」と「移動販売かてての闇」の構造を解く

―今回の百条委員会では様々な問題が浮上し、一見すると複雑に見えます。町政を揺るがした不正の構造を、分かりやすく解説していただけますか。

高橋 読者の皆さんに分かりやすくお伝えするなら、今回の事件は「元課長の宿泊費不正受給」という『点』の問題と、「約15年間、行政ぐるみで公金を不透明に流し続けた移動販売かてて問題」という『面』の問題、この2つが重なり合っています。

まず1つ目の「宿泊費不正受給問題」は、非常に悪質かつ巧妙な手口でした。

そして2つ目が、「移動販売事業かてて」の問題です。こちらは個人的な不正ではなく、約15年という長きにわたり、行政が公金を特定の団体に流し続け、その実態を説明しないまま運用してきたという、町の統治構造そのものの闇です。

―その1つ目の「宿泊費不正受給問題」について、元課長らは発覚を免れるためにどのような隠蔽工作を行い、どう誤魔化そうとしていたのでしょうか。その具体的な経緯を教えてください。

高橋 彼らが行った一連の手口は、行政職員として完全に一線を越えた極めて計画的で悪質なものでした。

まず、彼らは実際に宿泊していないホテル名を利用し、自作のフォーマットを用いて「偽造宿泊証明書」を自ら作成し宿泊費を請求・受給していました。

パソコン等で精巧に作ったフォーマットに不自然な印影を並べ、あたかも実際の宿泊施設が正規に発行したかのように仕立て上げて、偽の宿泊証明書を町の会計課に提出し宿泊費を受給していたのです。これが第一の不正な書類処理「複数の宿泊証明書を偽造」です。

さらに恐ろしいのは、この不正が発覚しそうになると、今後の宿泊費受給方法を容易にするために、「旅費規程ルールそのものを書き換えようとした」と受け止められる経緯があることです。彼らは内部で、運用の文言を「領収書や宿泊証明書の提出を不要とする旨の」方向へ改変していました。

つまり、書類の偽造という「嘘」でその場を取り繕うだけに留まらず、自分たちの不正が後から絶対に露呈しないよう、また行政のルール、旅費規程自体を自分たちに都合の良い方向へ動かそうとしたように見えるわけです。ルールを作る町の管理職職員が、自らの不正を隠蔽するためにルールそのものを壊す。これこそが行政職員にとって最大の禁忌であり、議会が百条委員会を立ち上げて徹底追及する直接の引き金となりました。

「移動販売かてて」の深淵:
15年という長きにわたる公金の使途不明

―もう一方である「移動販売かてて」問題では、どのような実態が暴かれたのでしょうか。

高橋 百条委員会の調査で明らかになったのは、これまで15年間、町の一般会計から人件費や諸経費を支出し町の職員をも派遣するなど町全体で行ってきた事業、「移動販売かてて」が町の直営事業ではなく、任意団体だったという衝撃的事実です。

またそれらの任意団体は設立届も提出しておらず、代表者不明、役員構成不明、決算書なし、税金なども無申告で、法的整備も不十分な中で管理されていたという目を疑うような光景でした。

これは行政が特定の団体に対し、公金を不透明な形で支出・管理していたと見られても仕方がない実態です。行政は膨大な人的・物的資源を15年間も投入しながら、その任意団体の経営実態・運営内容を把握しきれていない。完全に組織としての「機能不全」を意味します。

町は人を出す・金も出す・公用車も使うなどと、いかにも町の直営事業のように説明してきたにも関わらず、いざ責任を問われる段になると、「町直営事業ではない」「任意団体だ」と言い出し、説明する始末。そこに今回の大きな問題と本質があります。

―百条委員会での当事者たちの証人尋問は、どのようなものだったのでしょうか。また議会はどう応じたのですか。

高橋 証人尋問に召喚された職員や関係者たちは、保身のためか言い訳を終始繰り返す証人も少なくありませんでした。彼らの主張は「当時はそれが地域活性化のために最善の便宜(やり方)だと思っていた」「悪気はなかった」「記録は残っていないが、公金は適正に使われたと信じている」という精神論的な抗弁ばかりでした。

私は、行政の適正性は、個人の『善意』や『信用』で測るものではなく、客観的な『文書』と『法原則』によって証明されるものであると思っています。

彼らは「福祉性・公益性・地域性」という美名を使えば、公金の法的ルールを無視していいと錯覚していたように感じます。しかし、実際には決裁文書も領収書もないような「公金の使途不明」を放置することは、公金を扱う行政のあり方は到底看過できない状態です。証人尋問での彼らの「苦しい説明」そのものが、大刀洗町の行政組織がどれほどモラルハザードを起こしていたかを逆説的に証明していました。


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