敗れてなお語る─日本政治の危機 SNSが変えた選挙 若者支持離れと中間層の分断


2026年5月号 そこが聞きたい! インタビュー

今回の総選挙では自民党が316議席を獲得し、安定多数を確保した。数字だけを見れば圧勝とも言える結果だ。しかし、その裏側では投票率の低下や有権者層の分断、そしてSNSを軸とした新しい選挙手法の台頭が浮き彫りになったとも言われる。中道勢力の一員として選挙戦を戦い、結果として議席を得ることができなかった仁戸田氏は、今回の選挙をどのように見ているのか。敗北の当事者だからこそ語れる政治の現場、そして日本政治の構造的な問題について率直に語った。

仁戸田元氣氏(福岡3区)

にえだ・げんき/1979年福岡県生まれ。福岡県立京都高等学校、日本大学法学部政治経済学科卒業。神戸製鋼所勤務を経て松下政経塾(第27期生)修了。PHP総合研究所特別研究員、元内閣総理大臣秘書などを歴任。2011年福岡県議会議員に初当選し、福岡県議会副議長も務める。衆議院総選挙に2度挑戦するも落選。現在は福岡市西区を拠点に政治活動を続けている。

高市首相の勝負勘

―まず今回の選挙結果をどのように受け止めていますか。

仁戸田 率直に言えば、極めて厳しい結果と言わざるを得ません。敗れた側の人間が語ることですから、どうしても負け惜しみに聞こえるかもしれません。ただ、今回の結果を見て感じたのは、日本政治がかなり大きな転換点に差し掛かっていることを示したということです。小泉政権以降、日本政治の中にポピュリズム的な要素が入り込んできたと言われてきましたが、その流れが今回の選挙でさらに強まった印象です。

―自民党は316議席を獲得しました。一般的には圧勝という評価です。

仁戸田 確かに議席数だけを見れば圧勝に見えるかもしれません。ただ、比例代表の得票率を見ると自民党は3割程度です。投票総数も2000万票には達していません。2009年の政権交代の時と比べると投票率もかなり低い。必ずしも圧倒的な支持があったとは言えないでしょう。むしろ野党の票が分散した結果として議席が積み上がったという側面が大きいのではないでしょうか。私は、日本社会の中で中間層が弱くなり、政治も分断が進んでいることの表れではないかと思っています。

―高市首相の解散判断は選挙戦術として成功したという見方もあります。

仁戸田 それは否定できないと思います。政治的な勝負勘という点では非常に鋭かったと言わざるを得ません。我々中道勢力は、去年の10月頃から次の選挙を見据えて準備を進めていました。政策のすり合わせや候補者調整など、時間をかけて連携を作ろうとしていた矢先の解散でした。結果として十分な準備が整わないまま選挙戦に入ることになり、与党に主導権を握られた形になりました。ただ、国家のリーダーとして考えたとき、当時は中東情勢など国際環境も非常に緊張していました。本来であれば国内政治の安定を優先すべき局面だったとも考えています。

―その一方で、高市総理の外交、特に訪米についてはどう評価されていますか。

仁戸田 外交については、結果論で言えば高く評価されるべきではないかと考えています。外務省と連携し、チームでトランプ氏の性格を精緻に分析し、懐に入り込みました。松下政経塾の採用基準である「運と愛嬌」が、まさに最高のタイミングで発揮された。資源外交も「八方美人」と批判されても多角的に動くのがリアリズムです。戦前のABCD包囲網の教訓を思えば、あらゆるヘッジをかけるべきです。

―中道改革連立として戦った現場の苦悩は?

仁戸田 最大の壁は、公明党さんのような「組織政党」と、我々のような緩やかな連合体である「議員政党」が、十分な戦略共有もなく急激に交わってしまったことです。お互いの良さを生かすための具体的な戦術まで落とし込む時間が圧倒的に足りなかった。それが有権者の「結局、何をしたいのか分からない」という不透明感に繋がったのだと思います。これから具体的に一つ一つ成果を出すことが今後の展開にプラスになると考えています。

一変した選挙の風景

―ところで、今回の選挙ではSNSの影響が非常に大きかったと言われています。

仁戸田 本当に選挙の風景が変わりました。従来は地域を回って有権者と直接話をする「どぶ板」の活動に加え、今は政治に関する情報の多くがスマートフォン上で消費されますのでそのような状況にも対応がより必要になってきています。数十秒の動画や短い言葉が拡散され、それが政治家のイメージを作ってしまう。長年地域で築いてきた信頼関係が、SNSの情報によって簡単に上書きされてしまうような感覚を経験しました。これは政治のあり方を大きく変える出来事だと思います。

―SNS選挙では資金力も影響するのではないでしょうか。

仁戸田 極めて重要な問題です。民主主義は本来「一人一票」です。しかしSNS広告の世界では、お金をかければかけるほど情報が広がる。つまり資本の力が政治の情報空間に直接影響する構造になっているわけです。政治家がどれだけ理念や政策を語っても、広告費で拡散された情報の方が先に届いてしまう。これはある意味で、民主主義の新しい課題だと思います。

―ポピュリズムについてはどう考えていますか。

仁戸田 ポピュリズムの本質は社会の不満の表れだと思います。経済格差や将来不安が広がる中で、人々は分かりやすいメッセージを求めるようになります。その結果、複雑な政策よりも強い言葉や単純な解決策が支持されやすくなる。ただ問題は、それが政治の長期的な責任と衝突することです。政治は本来、短期的な人気よりも将来の社会をどう作るかを考えなければならない。しかしポピュリズムが強くなると、そのバランスが崩れてしまう。今回の選挙でも、そうした流れを強く感じました。

―若者層や就職氷河期世代の支持が広がらなかったとも言われています。

仁戸田 そこは今回の選挙で一番悔しかったところです。私はまさに就職氷河期世代と同じ時代を生きてきた人間です。努力しても報われない経験を共有している世代です。だからこそ同世代の声を政治に届けたいと思ってきましたが、結果として十分な支持を得ることができなかった。そこには大きな悔しさがあります。

あくまでも「日本人の精神性を土台」に

―若い世代の政治不信の原因は何でしょうか。

仁戸田 長い間、政治が彼らの問題に向き合ってこなかったということだと思います。非正規雇用の拡大や所得の低迷など、氷河期世代が抱えてきた問題に対し、政治の対応は必ずしも十分とは言えなかった。その結果として「政治は自分たちのことを見ていない」「どうせ政治は変わらない」という空気が広がってしまったのではないでしょうか。

―今の野党には、何が足りないでしょう?

仁戸田 例えば、小川淳也代表が掲げる「北欧モデル」には、今のところ日本社会の精神的基盤への理解が見えません。司馬遼太郎さんは「日本には3割の攘夷の気持ちがあり、それを5割にしないよう制御するのが政治だ」と語っていたそうです。今の野党には、この「日本人の伝統精神とは何か」という日本の歴史や文化に根差した政治理念が求められていると考えています。

―「再生の道」の代表、奥村光貴氏(25歳)が訪ねてきたそうですね。

仁戸田 奥村代表が来られた際、私が多神教的な世界観の話をすると、彼は「自分も、多神教文化圏での経済モデル・社会モデルを作りたい」と仰った。欧米型の強欲な資本主義ではなく、日本やインド、ASEANなど多神教的な背景を持つ国々が連携し、調和を組み込んだ経済圏を目指す。その事務局機能を日本が担うべきだという彼の考えは、私の持論と完全に一致していました。

―今後の具体的なアクションについて教えてください。

仁戸田 彼らは「政党ではなくプラットフォームだ」と言い切っています。それなら私も、自主活動として一緒にやれる。私はこの枠組みを九州で具体化させたい。若者が運営する「ZeHacQ」などから若い感性も借りて、政治を自分たちのこととして語れるコミュニティを構築していけないかと考えています。九州から火をつけていく。それが奥村さんたちと共有したビジョンです。

―AI時代の到来を見据えた、政治の最終的な役割とは何でしょうか。

仁戸田 2040年にはAIが人間を凌駕し、多くの仕事が失われるでしょう。政治がやるべきことは、合理性だけでは救えない「人間の情熱」や「生きがい」を守ることです。地域に根ざした祭りや文化をどう残すか。単なる所得補償ではない、日本人の精神性を土台にしたプラットフォームこそが、次世代の希望になると信じています。


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