覚せい剤依存からの更生の道─有言実行で己に課した罪と罰


2025年1月号 人・紀行 特別編 ─ 中林和男さん(大阪市在住) 合同会社ゴミ林ゴミ男(中林和男出版社)社長

犯歴23犯、前科11犯、獄中生活20年、更生は100%不可能と言われた男─中林さん。これまで取材した人の中でも異彩を放つ、と言うかこれまで会うこともないタイプの人物で正直、好奇心と緊張が相半ばしていた。その上、約束の時間に1時間も遅れてしまう大失態。遅れたのは、筆者が乗った博多発の新幹線が京都駅での車両点検の影響で岡山あたりから徐行、信号待ちで大幅に遅れたからだ。車中で中林さんに連絡、ようやく到着して待ち合わせ場所の駅の喫茶店。入ってきた中林さんの表情が穏やかだったので内心、ホッとした。

「ゴミと呼ばれて」

まずは著書の中にある本人の自己紹介を引用する。

「昭和38年生まれ 新聞配達員 中2でシャブを覚え泥沼の世界にどっぷり浸かり、中林だけは更生不可能であると太鼓判を押されていた。しかし、新宿歌舞伎町阿形充規先生との御縁、大阪拘置所の流合(はっけ)さん、原田さん2人の刑務官との出会いにより、癌や白血病より治療が難しい、シャブ中という病を完全克服。これまで世間に山盛り迷惑かけたことを懺悔し、贖罪の意味を込めて毎朝2時に起きて新聞配達をしている。

オレがこれからやるべきこと恵まれない子供達にお腹一杯ご飯を食べてもらう為、日本一大きい子供食堂を作る。現在その準備を進めている。己の全ての欲を捨て、目標に向かって日々精進しているところである」(『加筆改訂版 ゴミと呼ばれて 刑務所の中の落ちこぼれ』より)

昨年12月に上梓した『ゴミと呼ばれて 刑務所の落ちこぼれ』(中林和男出版社)は、4年前の2020年に上梓した同タイル(風詠社)の加筆改訂版だ。取材が決まって中林さんの本をネットで買い求めた。普段は少しでも安い中古本を買うのだが、売り上げが寄付金になると知って、新品を買った。早速読むと、ケンカに明け暮れ、ヤクザの道に入った青年時代、刑務所内での過酷な生活、覚せい剤中毒の幻覚症状…彼の更生前のいきさつが克明に生々しく綴られている。関西人のしゃれっ気で思わず吹き出しそうになるくだりもあるが、中味はやはり世間の常識からは大きく逸脱、読んでいて正直、ゾッとする。

その彼の生い立ちや更生前の半生については著書に譲ることにして、今回は現在と将来を中心に話を聞いた。

阿形充規氏の存在

中林さんは、更生は難しいと言われる覚せい剤依存症から脱却、以来更生の道を歩んでいる。その更生に大きく影響を与えたのが「阿形先生です。オレがこうしていられるのも先生の存在があったからこそです。先生のおかげで全ての欲を捨てることができました」。阿形先生とは、当時、住吉会執行部副会長本部長代行(現在は引退 現「社会の不条理を糾す会」代表世話人)の阿形充規氏のことで、小誌にも登場してもらったことがある。当時、拘置所にいた中林さんは面識がない阿形氏にお金を無心する手紙を出した。すると、「過分なお金と心温まるお手紙を頂きました」。その現金を持って服役し出所後、今度は傷害罪で逮捕され2年2カ月の間裁判で闘っている時も当時日野一家六代目総長に就任していた阿形氏に手紙を出した。阿形氏は送金し中林さんをその間を支え続けた。「見ず知らずで恥知らずの私を二度も救っていただきました」。2回目の時は毎月3万円を直筆の手紙が添えられて送り続けられた。

「今度こそ更生する」と誓った中林さんはその3年後に42歳で出所したが、再び覚せい剤に手を出して刑務所に舞い戻ってしまう。最後の入所ではさすがに阿形氏に手紙を出すことはできなかった。

「阿形先生を2度も裏切った。猛烈な自己嫌悪に陥りました。苦しかったです」

塀の中で自分と向き合う日々。流れのままにグレて、刑務所を出ては捕まる繰り返し。このままでは阿形氏に顔向けできない。連絡するには、まともな人間に更生しないとできない。最後の刑務所生活でそう心に決めた。

そうは言っても、覚せい剤依存者の更生へのハードルはかなり高い。『令和3年版 犯罪白書』によれば、覚醒剤取締法違反により受刑した者の出所後5年以内の刑務所 への再入率は44・3%と報告されている。

「オレが覚せい剤を止めて19年目になります。止めようとしている人で止められないのは『たまポン』するからです。たまにやると結局、元に戻るんです」

ちなみに「ポン」とは覚せい剤のことでヒロポンの隠語。ポン中は覚せい剤中毒者のことをいう。

3年の懲役を終えて出所、更生がスタートした。出所して最初に立ち寄ったのは、父が眠る先祖の墓だった。獄中で心に誓ったことを墓前で手を合わせながら伝えた。自然に大粒の涙が頬を伝う。覚せい剤の気持ちよさより更生するという決意が勝った瞬間だった。

「最後の出所」から真面目に働こうと片っ端から面接を受けるが、なかなか採用されない。解体業などで働いてみるが、長続きしない。職がなかなか見つからない。最低限の生活を確保するために生活保護を受けることになった。同時にC型肝炎の治療を始める、中毒時代に仲間で注射器を回し打ちして感染していた。この入院生活で中林さんの更生を支える存在と出会うことになる。入院中にただ一人、優しく接してくれた看護師と結婚する。

「こんなオレについて来てくれるのはこの女性だけ。この女性だけは絶対に裏切られない、絶対に更生してみせるとあらためて心に誓いました」


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