花を自然に育てる意義─バラの無農薬栽培に取り組む


2024年11月号 情熱九州 vol.43 ─ 福岡バラ会 森律子さん

無農薬でバラを育てている人がいるとのことで、早速、その人の自宅を訪れた。花を育てたことがない筆者だが、花を眺めると心が休まる。しかし、筆者が抱いているバラのイメージは、「派手」。幾重にも重なる花びらとどうしても赤いバラを連想してしまうからなのだろう。そのバラの魅力となぜ無農薬なのかという素朴な疑問を持っていた。

福岡バラ会との出会い

自宅のリビングのテーブルには、自身で育てたバラが飾ってある。筆者の「派手」というイメージとは違い、濃淡のあるピンクが目にやさしく、癒される。自然に近い色なのだろうか…

森さんが所属する「福岡バラ会」は、発足から70年を超える歴史を持つ。昭和27年(1952)春に猪野鹿次氏(元飯塚市長)ら5名が発起人となって発足、初代会長は猪野氏が務め、現在の会長で7代目を数える。会の活動は、創立以来続く「ばら展」ではデコレーションされたバラの展示、種目別コンテスト、バラの育て方相談、バラ苗即売会など、今年は11月2日から145回目のばら展が開かれる。また、これも創立から続くバラ栽培講習会では栽培方法を実践的に学んでいる。昭和57年(1982)には創立30周年を記念して会誌『ローズ・ふくおか』を発行、以来、年に1回発行、現在は会誌の代わりにホームページを開設し、情報を発信している。

森さんが入会したのは、平成23年(2011)のことだった。元々ガーデニングが趣味だった森さんは年に1回のばら展に夫と福岡市植物園に散歩がてらに出かけて、バラの株を買って自宅の庭で育てていた。その年はたまたま森さん一人で園を訪れたが株がなかったので、尋ねようと展示会の会場の中に入った。すると、老婦人が座っていた。

「株はないんですか?」
「あなた、バラ好きなの?」
「はい、好きです」
「まあ、そこに座りなさい」

会の説明を受けて勧誘される。年会費4000円(当時)で安く、気軽な会のようなのでいつでも辞められると入会した。この老婦人こそが6代目会長の小林正子さん(故人)だった。子育ても終わっていたので、バラに集中してみることにした。その時、できれば無農薬で栽培できないかと考えた。60代になってマクロビオティックなど健康的な食事を勉強し始めた。この他、気功、ツボ経絡も学んだ。「お陰で夫婦ともども健康に過ごせています」。その間、農薬の危険性に気づいた。家庭の料理はほぼ無農薬で味噌、梅干しは森さんの手作りだ。

「バジル、ローズマリー、レモングラス、レモンバーム、ミント、カモミール、和ハーブの青しそ、みつばなどハーブも育てていてお料理や生活に活かしています」

あらためて、バラについて少し調べてみた。

バラが人類の歴史に登場するのは古代バビロニアの『ギルガメシュ叙事詩』である。この詩の中には、バラの棘について触れた箇所がある。

ナポレオン・ボナパルトの皇后ジョゼフィーヌはバラを愛好し、夫が戦争をしている間も、敵国とバラに関する情報交換や原種の蒐集をしていた。ヨーロッパのみならず日本や中国など、世界中からバラを取り寄せマルメゾン城に植栽させる一方、ルドゥーテに「バラ図譜」を描かせた。

このころにはアンドレ・デュポンによる人為交配(人工授粉)による育種の技術が確立された。ナポレオン失脚後、またジョゼフィーヌ没後も彼女の造営したバラ園では原種の蒐集、品種改良が行われ、19世紀半ばにはバラの品種数は3千種を超え、これが観賞植物としての現在のバラの基礎となった。

日本はバラの自生地として世界的に知られており、品種改良に使用された原種のうち3種類(ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナス)は日本原産。ノイバラの果実は利尿作用があるなど薬用として利用された。

古くバラは「うまら」「うばら」と呼ばれ、『万葉集』にも「みちのへの茨(うまら)の末(うれ)に延(ほ)ほ豆のからまる君をはかれか行かむ」という歌がある。『常陸国風土記』の茨城郡条には、「穴に住み人をおびやかす土賊の佐伯を滅ぼすために、イバラを穴に仕掛け、追い込んでイバラに身をかけさせた」とある。常陸国にはこの故事にちなむ茨城(うばらき)という地名があり、茨城県の県名の由来にもなっている。

また、中国で栽培されていたバラもその多くは江戸時代までに日本に渡来している。江戸時代には身分・職業を問わず園芸が流行したが、中国原産のバラであるモッコウバラ、コウシンバラなどが園芸品種として栽培されていた。江戸時代に日本を訪れたドイツ人ケンペルも「日本でバラが栽培されている」ことを記録している。また与謝蕪村が「愁いつつ岡にのぼれば花いばら」の句を残している。

バラが日本でも愛好されるようになるのは明治以降のことだ。(ウィキペディアより)

筆者が持つバラの「派手」というイメージ。バラのことを調べていると、このイメージはかなり修正しないといけないようだ。バラの花言葉は、その色によって違うからだ。筆者が派手だと感じていたのは、「純粋と愛らしさ」「純粋な愛に染まる」真っ赤なバラ。プロポーズに赤いバラを贈るシーンが印象に強く残っているからなのだろう。白は「純潔」「私はあなたにふさわしい」「深い尊敬」。黄色は「愛情の薄らぎ」「嫉妬」「友情」、青は「夢かなう」「不可能」「奇跡」「神の祝福」、そして取材時に目の前に飾られていたピンクの花言葉は「しとやか」「上品」「感銘」。

自然のままで

バラがかかる病気は、葉っぱや茎に小さな黒い斑点が現れる「黒星病」と葉っぱの表面に白いカビが生える「うどんこ病」。黒星は雨にあたると罹る病気で、うどんこは風通しが悪いとなりやすい。コンテストに出品するバラのほとんどが「ハイブリット・ティー」という品種で、二種類のバラを交配させたバラで19世紀のフランスで育てられた。春から初冬まで年間を通じて複数回咲く「四季咲き性」、支柱に結ばなくても木のように株が自ら立てる「木立ち性」、1つの枝の先に大輪の花を咲かせる「大輪」などの特性を持ち、人気がある。最近では、「イングリッシュ・ローズ」や「モダン・ローズ」、「シュラブ」がトレンドだという。


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