2024年12月号 そこが聞きたい! インタビュー
地域人口の60%以上が65歳以上で、人口減少・高齢化が進み社会的共同生活を維持することが限界に近づきつつある「限界集落」。都市部への人口流入と少子高齢化による人口減少で限界集落の衰退は進み、「終息」する危険性をはらむ。その「終息危機集落」朝倉市黒川地区の挑戦が始まっている。
一般社団法人くろがわ
鳥巣良彦氏 一般社団法人くろがわ 代表理事(写真右)
昭和29年(1954)、朝倉市生まれ。旧朝倉農業高等学校を卒業後、家業である梨園(現在の秀幸園)を引き継ぎ、減農薬・有機肥料による梨づくりを行っている。猟友会に所属し、獣害駆除や養蜂も手掛ける。地区の農業委員や活性化推進委員会の代表、一般社団法人くろがわの代表理事を務める。
師岡知弘氏 一般社団法人くろがわ 理事(写真左)
昭和45年(1970)、朝倉市生まれ。鹿屋体育大学卒業後、サラリーマン生活を送る。2015年黒川地区に移住。2021年から社会的養護経験者や孤立化し悩める若者の拠り所である「みんなの家みんか」を立ち上げ、受け入れを開始。一般社団法人くろがわの事務局を担当。
存亡の危機
―まず、地区の農地の現状から聞かせてください。
鳥巣 平成29年(2017)の九州北部豪雨で地区の農地9割以上が被害に遭いました。それがようやく7割ほど復旧しました。昨年7月の豪雨がありましたが、幸い前回の水害で流木が流れてしまっていたのでそれほど大きな被害には至りませんでした。平成29年の被害が甚大だったのは、橋に流木が引っかかってそれがダムのように水をせき止め、それが山裾の液状化により崩落、大量の水と土砂が農地に流れ込んだからです。復旧してもらったのはよかったんですが、二度と水害に遭わないように川幅を広げたり、水深を深くするなどしていただきたいと申し入れても「現状復旧が基本」と断られました。
それでも農地がなんとか復旧し、これから地区の農業が再開できることになりました。しかし、担い手がいないことにあらためて気づかされました。もともと高齢化が進んでいた黒川地区は、災害の後3つの集落が消滅してしまいました。せっかく農地を復旧してもらっても、あと10年もすれば誰も農業をできなくなる。そうした危機感を募らせていました。個人でやるのには限界があります。若い担い手が必要です。そういう状況だから師岡さん達のような他の地域から移住してきた若い人も巻き込んでこの地域をどうしていくか検討し、実行に移したいと考えました。
まず4年前に行政から、「今後の復旧農地をどうするのか、地域で考えてほしい」との依頼があり、各集落の代表が集まり、「黒川地区の農業(未来)を考える会」を発足しました。当初は、(未来)という言葉はなかったのですが、私がどうしても農業だけではなく、地域の未来も併せて考えたいと意見し、加えてもらいました。その後、全体会や役員会を延べ30回以上実施し、どのようにしていくかを地域の皆さんと検討してきました。一部、中間管理機構からの農地管理の委託業務を受ける有志による団体「黒川の農業を守る会」を作り、実際に草刈りや耕耘作業を行ってきました。
―そういった取り組みや検討の結果が、昨年8月に地区の有志で設立した一般社団法人くろがわ(以下、社団)ですね。
鳥巣 この地区は標高200~350mの中山間地域にある小さな集落で、過疎化と高齢化が進み現在の世帯数は54世帯、人口はわずかに83人、農業従事者は20人足らずです。地区の耕作面積は約43 ha(うち災害復旧農地は約30 ha)ですが、これをどうやって維持するかという課題を抱えています。私は70歳になりますが、地元の90歳代の方たちからは、「あんたたちは、まだ若い」と言われるくらい地域は高齢化しています。昔の70歳なら、中隠居してゆっくり過ごせていましたが、今は違います。何かをやらないとこの地区は消滅してしまうという強い危機感があります。「もう何もできない」と高齢の先輩方は言われますが、「そんなことはありませんよ。地区の将来のために何かできることをやってください」とお願いしています。昔、ゆっくりのんびりできたのは、若い人たちがいて活気があったからです。今はそんな状況ではありません。
人材の確保が急務ですが、後継者や担い手が決定的に不足しています。I・J・Uターンなど外部から新規就農者に来てもらうしかありませんが、やはりその受け皿になる場がないと人は来ません。
―後継者不足の原因はやはり若者の農業離れがあるのですか?
鳥巣 これから農業を継ぐ若者には地元の者というDNAは関係ありません。本当に農業が好き、田舎が好きな若者が継ぐべきです。これだけの異常気象の中で過酷な自然を相手にする農業をやるには、まず農業が好きじゃないとできません。農業が好きな若い人を外部から受け入れるしか、この地区の農業や生活を守る術はないと思います。
「地域まるっと中間管理方式」
―社団の仕組みを具体的に聞かせてください。
師岡 この地区の地権者115名のうち社団の会員になってもらったのは60名です。繰り返しになりますが、このプロジェクトは4年前、行政からの投げかけから始まりました。多額の公金を投じて復旧された農地を地域としてどう活用していくのか考えてほしいという行政からの問いかけでした。地区の農業人口や年齢の現状を考えると当然のことだと思います。役員を中心に、地域の皆さんと何度も会合を開いて、たどり着いた結論が「地域まるっと中間管理方式」を採用することでした。「魅力ある地域づくり研究所」の可知祐一郎代表が考案した方法です。地域で非営利型の一般社団法人を設立して、福岡県農業振興推進機構の農地中間管理事業(農地バンク)を介して地域内の農地をその社団に集積します。集積することで、助成金を得られたり、どの土地を誰が耕作しているのかを把握でき、相談にのったりすることができるようになります。
―農地中間管理機構事業とは?
師岡 農地の貸借により、地域農業の担い手に農地の集積・集約化を行う国の制度として、平成26(2014)年度からスタートした事業です。令和5年度から事業内容が見直され、市町村が策定する「地域計画」に基づいて、農地中間管理事業を効率的・効果的に推進することになりました。法人は集落営農組織として位置づけ、集積された農地で営農活動ができます。集積後も、地区内の農家が希望すれば従来通り、個別に営農できます。
また、法人と農家の間で「特定農作業受委託」契約などを結ぶことで、農家は従来と同じ農地を使って、個人で農作物を生産・販売できます。この仕組みで、個別に営農を続けたい農家分も含めて地区内の農地を集約しやすくなりました。法人で管理する農地になるので、耕作ができなくなっても農地は法人に引き継がれて、希望者に貸して耕作することで農地が放棄されにくくなります。この仕組みは新規就農者の受け皿にもなります。
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