筆一本で「自己解放」できる書のだいご味 40歳で出合った道に一生を賭ける


2024年7月号 情熱九州 vol.41 ─ 書家 小山 翔風さん

剣道、柔道、華道、茶道、書道と一つのことを極める修練の道筋を「道」(みち・どう)という。また、正しい生き方や正しい筋道を表す「道理」「道義」にも道が使われている。日本人にとって「道」が持つ意味は深い。

「道」

あらためて、「道」について少し考えてみたい。

「道」は日本に元々もあった概念で日本独特のもの。みちは「み・ち」と分かれ、「ち」は「路」、すなわち「通行するための通り」を意味している。「み」は「御」あるいは「美」の意ともされる接頭語だと考えられている。このように日本語の「道」は、英語の「road」や「street」とは違った意味がある。「道」には元から、「まっとうなもの」「原理として無視できないもの」というニュアンスがあったと考えられている。その考えが、ある分野を修業して極めていくことを「道」(みち・ドウ)となり、「茶道」「華道」「剣道」「柔道」などの呼び方が生まれたようだ。「剣術」が「剣道」、「柔術」が「柔道」と変化したことで、テクニックとしての「術」を習得すればよいだけでなく、そこに「道」を見出し進んでいかなければならないという意味を持たせた。

こうした変化は明治時代に起こった。西洋文化が流入してきた近代に、あえて「道」という言葉を使うことで、日本文化と西洋文明とを弁別させたのではないだろうか。ところで道は武道、芸事だけではない。どの職業でもその高みを目指して刻苦勉励し精進している人は多いだろう。しかし、高みを目指せば目指すほど、その頂は無情にも離れていく。一生涯かけても恐らく到達できないだろう。それが「道」ではないだろうか。おこがましいかもしれないが、筆者の職業から言えば、「編集道」「記者道」「インタビュー道」とでも言おうか。

それまでグラフィックデザイナーだったこの稿の主人公、小山さんは40歳にして書「道」に通じる扉を開くことができた。その扉とは何だったのか。また、その書の魅力は何なのか。

昭和50年(1975)に佐賀県鳥栖市で自営業の家庭の2人姉妹の次女として生まれる。ちなみに鳥栖市は元々対馬藩の飛び地領で「田代領」。藩主の宗氏が、朝鮮との貿易で朝鮮から輸入した漢方薬の実物と知識が豊富に供給された事と、収入源を確保する目的から、領民には薬の製造を副業とする者が増え、次第に他領でも行商するようになった。江戸時代後期には日本四大売薬の一つと数えられ、九州の薬商の大半を占めた。田代産の薬が占める程だった。また、古くから九州の交通の要衝で、その歴史が現在の九州縦貫道と横断道が交差する鳥栖ジャンクション、物流倉庫が集積する背景にある。その歴史がサロンパスで有名な久光製薬を生んだ。

グラフィックデザイン

親は仕事で忙しく、放任されて育てられた。

「幼い頃からほったらかし。自分で何でもやっていました」

高校は鳥栖商業高校、大学受験に失敗し浪人できなかったので、地元の商工会(準公務員)に就職するが、わずか3カ月で辞めた。

「毎日伝票を打つ事務仕事でした。これから先この仕事を続けないといけないのかと」

好きなことを仕事にしたい。絵を描くことが好きで、幼い頃からマンガを描いたり、中学時代は美術部に所属していた。そこでグラフィックデザイナーを目指すことにしたが、専門的に学んだこともないし、もちろん経験もないので、まずは近い業種の印刷会社に職を求めた。

地元民放の下請けをやっていたその会社では印刷物の文字組を担当し、字のバランスなど印刷の基本を学んだ。しかし、デザインには全く触れることはなかった。1年半で「卒業」する。当時、デザイン界にアップル社の「マッキントッシュ(Mac)」が普及し始めていた。そこでMacを学ぼうと探していると、地場大手印刷会社がそれまでの版下からMacに移行するためにオペレーターを募集していた。

「それまでのやり方を知っているより、まっさらな状態の人材から育てようという目的で採用条件は経験不問でした」

印刷業界、デザイン業界がアナログからデジタルへの移行期を迎えていたのが、小山さんにとって幸いした。

2年間、アルバイトの身分だったが、泊まり込みで仕事はハードだったが、Macで作業しながら時たまデザインもさせてもらうようになった。その経験を引っ提げて、初めてデザイン事務所の門を叩き、デザインプロダクションにデザイナーとして入ることができた。高校を卒業して、5年目で初めて絵を描く道が開けた。

「ようやくたどり着いたというか、ゼロの下積みからのスタートでした」


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